[ひとりごと(1998.6.16)]

QuarkXPressバージョンアップの波紋

 レイアウトソフト「QuarkXPress日本語版」が4年ぶりに4.0へバージョンアップするが、これがネット上で波紋を呼んでいる。バージョンアップ料金が99,000円と、かなり高額だったことがその発端になった。ちなみに製品版はオープンプライスだがざっと298,000円といわれており、こちらも旧バージョンと比べて10万円以上高くなった。

 波紋は製品出荷が近づいた5月の中旬くらいから広がり始めたようだ。僕のHPの掲示板にも「なぜ99,000円もするか情報を教えてほしい」と書き込まれたのが最初だったし、その頃からいくつものDTPサイトの掲示板にこの話題が書き込まれるようになった。6月に入るともっぱらこの問題だけに話題を絞った掲示板(UNOFFICIAL QX Ver.3ユーザ会など)も登場した。

 今回の波紋の特徴は、QuarkXPressというレイアウトソフトに対して基本的に評価をし、実際に仕事で使っている人たちの間に、意図が積極的か消極的かは別として、「Quarkばなれ」とも呼べる現象をひき起こすかもしれないという可能性を感じさせていることだ。事実、PageMakerやEDIcolorなどへの乗り換えを考えているユーザーも少なくないようだ。
 僕もQuarkXPressとの付き合いは4年を超えた。今のところ別のソフトに乗り換えるつもりはないが、しかしすぐにバージョンアップもできないというジレンマを感じている。また、取引先の判断によっては乗り換えざるを得ないという可能性も否定はできない。

 端的にまとめるならば、理由はこういうことだろう。
 バージョンアップには期待していた。アップ料金が発表されて、高額さに驚いた。その上、英語版に比べてはるかに高額だという(為替レートの問題もあるが、約2〜3倍)。日本語版へのローカライズだけの問題とも思えない。いったいなぜこんなに高いのか。これが第1の不満だ。
 そして、QuarkXPressのドングル(コピープロテクト)は有名だが、現在使っているソフトの数だけバージョンアップするとなると、会社などでは数百万円の高額な出費となる。それだけの投資をして、この不況時にはたして償却ができるのか、あるいはその投資分だけの効率アップができるのか。これが第2の不満であり不安だろう。
 僕の知っている印刷会社でも、すべてのソフトのバージョンアップは当面行わず、一部だけにとどめて様子を見るという。僕にしたところで、消費税を含めて1本10万円を超える出費(わが事務所では2つ使っている)は、この時期しんどい。実際、昨今の商況は厳しいからだ。

 では、そもそも4.0へのバージョンアップのコンセプトは何だったのか。
 Quarkジャパンの社長が「MAC LIFE」98年3月号の誌上で語っていることを僕なりに解釈すれば、ひとつはソフトそれ自体の操作性の向上、もうひとつはベジェ曲線機能やPhotoShopのプラグインが使えるなど、QuarkXPressだけでグラフィック処理を含めた幅広い作業を完結させ得ること、そしてWindows版の登場によるOSの違いの吸収、ということになるのではなかろうか。

 これらは従来から求められていたことだし、僕は基本的に歓迎する。デモ版をさわってみて、テキスト編集をはじめ数多く追加された新機能には期待しているところだ。
 同時に、ベジェ曲線の操作性が悪かったり、不満のあったH&Jの基本的な仕組みがそのままであるなど細部には物足りなさが残る。その点、今後さらに洗練されたソフトになってほしいと期待するところだが、それだけに「これじゃベジェはやっぱりIllustratorを使うよな。だったらあの値段は高い買い物だなあ」などと思ってしまうのが正直なところなのだ。

 で、これはまったく僕の想像だが、ひょっとしたら次のバージョンアップは意外に早いのではないかという気がしている。
 というのは、英語版はすでに「QuarkXPress4.03」になっているし、アメリカのQuark本社のWebサイトでは「QuarkXPress5.0 Wish List」なるフォームで、次期バージョンへの意見を募集しているようだ(英語にうといので正確かどうか……)。
 もし、次のバージョンアップまでの期間が短いとしたら、メーカーは短期間に開発費用を回収しなければならない。それが今回の高額料金に反映したとすれば、かなりつじつまが合うように思うが、的外れだろうか。

 いずれにしても、今回の高額バージョンアップによってQuarkXPressは一定の既存ユーザーを失うだろう。Windows版は売れるだろうか。もちろん売れるだろうが、爆発的には売れないだろう。Windowsがなぜシェアが高いかを考えたとき、「安い」ということを無視できないからだ。
 だとすれば、QuarkXPressの価格を再検討するのは、ユーザーだけでなくQuark社にとっても有益ではないかと思えてならない。
 そして何よりも、QuarkXPressは資金力のあるところだけが使えるソフトにしてはいけないと思うのだ。組織的にDTPを行っている会社などのまわりに、小規模事務所やフリーランスでDTPを支える多くの人々がいることを忘れてはいけないと思う。

 さて、当のQuarkXPress4.0Jは5月29日に出荷と発表されたが、市場に現れるのはまだ先になるとの情報も飛び交っており、実際のところはよくわからないのが実情だ。QurakジャパンのWebサイトでは、この件に関しては何もアナウンスされていない(システムソフトは、6/19発売予定、価格オープンとしている)。
 そして僕は、目下のところ模様眺めを決めこんでいる。何をするにも金がないのだ、トホホ……。

(記/1998.6.16)

※QuarkXPressはQuark社の、PageMaker、PhotoShop、IllustratorはAdobeの、EDIcolorは住友金属の、Windowsはマイクロソフト社の、それぞれ登録商標です。


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