NewCIDフォントのベースライン
先日あるWebサイトの掲示板で、NewCIDフォントのベースラインが上がったような気がするが、という情報を読んだ。その時は読み流していたのだが、NewCIDフォントを使ってフォント埋め込みのPDFを作る作業をしていて、ふと見出しの上下のセンターがズレているのに気がついた。もともとOCFフォントを使って組んであるQuarkXPressのドキュメントを、フォントだけNewCIDにして埋め込もうとしていたわけで、変更したのはフォントだけだ。念のためボックスの位置なども確認したが問題はなかった。
はは〜ん、あの書き込みはこれのことか、と改めていろいろと試してみることにした。まずは下のサンプルを見ていただきたい。
■確かにズレがわかるNewCID
サンプル上と下は、PDFにしたものを画像として切り取ったもの。上は、上下のセンターがずれたNewCIDフォント(見出しミン・埋め込み)。わずかのことなのだが、上下にラインがあったり箱の中だと、一見してズレているとわかる。サンプルはわかりやすいようにわざわざ箱で囲んでみた。サンプル中は、ガイドラインでズレをわかりやすく示した上記のドキュメント(カラーなど違うが同じもの)。
サンプル下は、NewCIDに変更する前のOCFフォントで組んだもの。もちろんフォント埋め込みはできないが、PDFはNewCIDのATMフォントで表示されている。それでも正常な位置にある。
NewCIDフォントを使用してQX4.1からフォント埋め込みでPDFにしたもの。
上のQXドキュメント。ガイドラインでセンターを示してみた。
OCFフォントを使用してQX4.1からPDFにしたもの。PDFの表示はNewCIDフォント。サンプルをPDFで作ったのは、プリントする場合と同じ効果が得られるから。実際にNewCIDフォントを積んだプリンタでプリントしても、全く同じ結果だった。モリサワのプリンタフォントはOCFもNewCIDもPSフォント名が同じだから、フォントの指定がどちらでも同じフォントが使われるわけだ。OCFからPDFにした場合も、NewCIDのATMフォントがあればそれが表示に使用される。
こうしてプリントや表示に同じフォントを使いながら結果が異なるのは、ズレの原因がNewCIDのプリンタフォントやATMフォントのせいではない、ということを意味している。
おおざっぱに言えば、プリンタフォントやATMフォントはアウトラインデータのみのもので、フォントに関するいろいろな情報はスクリーンフォント(つまりスーツケース)にあると理解しておいて、そう大きな間違いではないと思う。そのフォント情報が、OCFとNewCIDで違うということになる。
■CID移行時にほとんどのフォントのDesent値が変更されていた
では何が違うのか。
OCFからCIDに移行する際に、一部の字形や一部のフォントのWidMax(フォントの幅)などが変更されたが、それに加えてフォントの高さに関する情報も変更されていた。和文フォントの高さは、ベースラインをはさんで上側がAscent、下側はDescentと呼ばれている。
実は1998年の2月に、それらの情報がモリサワから送られてきていた。当時は、縦組みのズレにからむWidMax値にばかり気を取られてすっかり見過ごしていたが、どこかにあったはずだと思って探してみたら、FOND情報の一覧表(PDF)という書類がでてきた。「OCFとCID混在の注意点」というPDFファイルの一部で、1997年11月10日現在の情報が記載されている(その後変更されたかどうかは不明)。
それを見ると、記載された26書体のうち、1書体を除いてすべてのDescent値が変更されている。OCFフォントのDescent値がほぼ「-491」で統一されているのに対し、CIDではAscent値は「3604」に統一されているものの、Descent値はバラバラと言っていいほど細かく違っている。最も小さいものが「-491」、最も大きいものは「-897」と、大きな開きがあるのも特徴だ。(なお、詳しいことはわからないがDescent値のマイナスは、考える上では無視してもかまわないのではないだろうかと思う)
この変更について同書類では、「ATM 表示(Macの画面上)で、文字欠けを防ぐ為に、WidMax・Asent ・Desentの値を変更」と説明されているほか、「行間を自動にした場合に、OCFとCIDで行間に相違が発生。Asent 及びDesentの相違により発生。QuarkXpress,PageMaker,Illustratorでは、発生しない。SimpleText等(行間の定義:Asent +Desent +Leading)アプリケーションで発生する」との情報が提示されている。
Ascent値とDescent値がどういう数値なのか、いまひとつわからないのだが、マイナスを無視して単純にプラスすると、OCFでは「4095」になる。WidMaxが「4096」だから、ほぼ正方形だ。
しかし、NewCIDでは最小「4095」から最大「4501」となり、これがそのまま高さだとすると、同じサイズでもフォントによって高さがまちまちということになってしまう。だが、たとえばサンプルで示したものは16Q(4mm)なのだが、手持ちのNewCIDフォントはどれもその4mm高のボックスに収まるから、単純な高さではないようだ。
では比率なのかと推定して、Ascent値とDescent値からベースライン位置を割り出すと、OCFでは下からほぼ12%のところにくる。NewCIDでも同様にすると、ベースライン位置は最も低いものでOCFと同じ下から12%のところ(1書体のみ)、最も高いもので下から19.9%のところにくることになる。
どっちにしても、CID、NewCIDになってフォントのDescent値が大きくなり、相対的にベースラインが上がったということは言えるようで、それに合わせて文字の位置も上がっているのであれば、サンプルに示したような上下センターのズレの原因として理解はできる。■ベースラインシフトで調整するしかないのか
想像の域を出ないものの、仕組みはなんとなくわかってきた。しかし「ほな、どうすんねん」という思いがつのってくる。ボックスで「センター」を指定してセンターにできないのであれば、まったく意味がない。いちいち調整するしかないのだろうか。
しかもクセが悪いのは、フォントによってまちまちなこと。OCFに比べてベースライン位置がどれだけ上がったか、上記の比率での計算をもとにして、差が小さいものからあげると次の通り。
ゴシックMB101シリーズ…………0〜1.12%
新ゴシリーズ…………………………1.21%
じゅんシリーズ………………………2.24〜2.97%
教科書シリーズ………………………3.31〜3.61%
リュウミンシリーズ(L除く)……2.49〜3.78%
太ミン、見出しミン、新正楷書……4.66%
太ゴ……………………………………5.84%
見出しゴ………………………………7.04%
リュウミンL…………………………7.78%
中ゴシックBBB……………………7.94%
新ゴまでは、ほとんど影響がないようで、実際にも差はほとんどわからなかった。しかし、じゅんからは文字が上方にズレていることが目立ち始める。そんなわけで見た感覚ともほぼ合致するから(私は全書体を持っているわけではないが)、上記は、当たらずとも遠からじ、というあたりではないだろうか。
今のところ、いろいろ考えても、NewCIDフォントを使用する限り、ベースラインシフトなどで調整するしかないかもしれない。それ以外の回避策は、スクリーンフォントにOCFフォントを使用することか。おおむね問題はないだろうが、字形その他いくつかの問題は含むことになるが。当面はそれでしのぐか……。
この件に関して、詳しい情報や間違いの指摘、またよりよい回避策があれば、ぜひ教えていただきたい。
なお、縦組みではこの影響はでないようだ。
(記/2000.11.25)
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