[京のお酒エッセー 2005.12]

小国文男
京のお酒エッセー

万壽長命「千年の技」(豊澤本店)

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【データ】
万壽長命「千年の技」
醸造元:株式会社豊澤本店
原材料名:米・米麹・醸造アルコール
原料米:五百万石
精米歩合:50%
アルコール分:15度以上16度未満
日本酒度:+8
酸度:1.4
杜氏:藤井好政(但馬杜氏)

 このお酒は先日、油長さんで目にとまった。いまはもう幻とも言えるであろう銘柄「万長(万壽長命)」である。
 聞けば、現在は「蒼空」として復活している藤岡酒造が一時廃業に追い込まれたとき、その銘柄だったこの「万長」最後のお酒を、どういう関係かは知らないが、豊澤本店が引き受けて貯蔵していたものだという。8年古酒らしい。
 だからこのお酒、豊澤でも藤岡でもなく、蔵元は「万長」と思って書こうと思う。

 念のために豊澤本店のサイトにもアクセスしてみた。少し詳しい情報があった。しかし「3年古酒」としてある。ありゃ、8年じゃないわけ? そうか、そのページを作った時が3年古酒の時だったのかと思って、ブラウザでページ情報を参照すると2004年3月が最終更新。うーん……。
 とはいえ、藤岡酒造が一時廃業したのは95年というからすでに10年前。少なくとも3〜4年ものでないことは明らかだろう。
 ちなみに、瓶に「製造年月」の表示はなかった。通常は瓶詰めした月が表示されるのだが、古酒の場合はどうなるのだろうか。よく考えたら、これまで古酒は買ったことがなかった。

 いよいよ栓を開けた。コップに注ぐと、さすがに琥珀色とまではいかないが、明らかに黄味がかっている。鼻を近づけると、またしてもうーん、なんと言っていいのか……。酒が若い時ならたぶん「ツン」ときたのではないかと思える香りが「スン」くらいにまろやかになったような感じ……、うー、表現できん……、くやしい。
 口に含んだ酒は、まさしくまろやかな感じ。すでに超辛ではない。かといって、ことさら甘いとも思えない。うまく調和した丸みといえばいいのだろうか。
 少なくとも、かなり気にする僕でも、もはや醸造アルコールがどうのこうのというレベルではないお酒に思えた。年月がそれらすべてを馴染ませたということなのだろうか。

 さっきからチーズをアテにし始めた。これがなかなか合う。ついついコップに四杯目を注いでしまった。

(記/2005.12.9)

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