[京のお酒エッセー 2006.1]

小国文男
京のお酒エッセー

純米大吟醸「蔵纏」(豊澤本店)

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【データ】
純米大吟醸「蔵纏」
醸造元:株式会社豊澤本店
製造年月:不明
原材料名:米・米麹
材料米:山田錦
精米歩合:40%
アルコール分:15度以上16度未満
日本酒度:+4.0
酸度:1.5

 蔵元サイトを見ると、この「蔵纏(くらまとい)」は年間500本しか造らないのだという。蔵の最高級品とあって、あとで文箱にでも使えるかと思えるほどの大きな桐箱入りだった。
 瓶も独特の形をしていて、栓はネジ式。口径も少し小さい独自サイズのようで、いつも使っている注ぎ栓が入らなかった。
 コップに注ぐと淡く黄味がかっている。

 この蔵のお酒で面白いのは香りではないかと思う。以前飲んだ同蔵の「豊祝」と共通する香りが鼻をかすめる。これはたぶん、伏見のお酒のなかでは少ない部類ではなかろうか。
 解説には「フルーティーな香り」とある。でも僕にはあまり「フルーティー」とは思えない。どんなフルーツなのか思い浮かばないし、かといってお米の香りのようにも感じない。

 実は去年の暮れに、知り合い数人といっしょにこのお酒を飲んだ。やっぱり香りが話題になった。どう表現する?と……。
「カビのような香り」と、一人が言った。
 なるほどそうきたか、という感じ。考えてみれば麹はまさしくカビだから、お酒はカビの賜に他ならない。ただ「カビのような」と言うと、なんだか美味しそうに聞こえないのが難点だ。
 似たところで、もしかしたら「○○チーズのような」と言えるかもしれない。でも僕はその「○○」に入るべきチーズを知らない。うーむ、辛いところ……。
 そんなわけで僕には「〜のような」が浮かばない。それに比べれば、何か一つでもたとえられたらたいしたものだと思ってしまう。

 いずれにせよ、スモークとでもいったらいいのか、一種の「くさみ」のようなものを感じるわけ。無難な表現でいえば「クセがある」といったところ。それがこのお酒のインパクトになっているように思う。
 それゆえ好みは分かれるかもしれないが、そのインパクトは記憶に残るように思う。僕がこのお酒を飲んで思い出したのは「豊祝」同様、二十数年前に飛騨で飲んだお酒の香りだったのだから。

 なお、香りを楽しむなら冷やしすぎない方がいいように思う。

(記/2006.1.16)

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