[2000.3]

「京の味散歩」2000年版

京都朝日事業センター発行、企画・編集/(株)クリエイツかもがわ、部分取材&原稿



やっぱり料理は食材やね
ここにこだわりたい老舗と伝統の味

 料理の基本にたちかえってみると、素材は何より大切。古都らしい老舗と伝統の味を求めて京都の町に出かけた。すると伝統だけではなく、意外な効果や新しいアイデアなども見えてきた。

麩嘉
麩嘉の生麩と麩嘉饅頭/撮影・有田知行

●味がないから生麩の料理は幅広い
 麩嘉錦店

 京の台所として知られる錦市場の一角に「ふふふ」の暖簾が目を引く『麩嘉錦店』。江戸時代から禁裏御用を務めた生麩の老舗で、本店は上京区にある。小麦の中のタンパク質の塊である生麩はそれ自体に味はないが、京料理には欠かせない食材のひとつだ。
 店頭にはさまざまな生麩が並んでいて、料理法も気軽に聞ける。吸い物や鍋物はもちろん、スライスして造りにしたり、サラダに入れたり、生麩の田楽や生麩の照り焼きなど、実にさまざまに料理できるという。また餡を生麩で包んだ麩まんじゅうは、生麩の弾力とそれを噛み切って出合う餡の甘みがドラマチックな人気の逸品。

tawawa
tawawaの京野菜カレー/撮影・川崎 敦

●伝統の食材を新しい姿の料理に生かす
 京野菜かね正・レストランtawawa

 みず菜、壬生菜、九条ねぎ、京たけのこ、伏見とうがらし、賀茂なすなどに代表される京野菜は、京都で古くから作られてきた伝統の食材。いずれも「和」のイメージが強いが、これを「洋」に展開しているのがフランス風レストラン『tawawa』。聖護院だいこん、えびいも、みず菜などがどーんとトッピングされた京野菜カレーやスパゲティ、季節の旬の野菜を使った京野菜スペシャルコースなどがあり、若い人から年輩の人まで幅広い客でにぎわう。農家と提携して京野菜を専門に扱ってきた『かね正』の、現代への提案のひとつだ。そして社長の土明良久さんが「いま一番力をいれている」のは生産者の育成。「生産者の顔が見える流通で、安全で新鮮な野菜を届けたい」とますます精力的だ。

村山造酢
村山造酢/撮影・伏屋俊邦

●京料理と共に育ったまろやかな酢
 村山造酢

 酢は万葉の昔から使われてきたといい、京料理になくてはならない調味料、かくし味だ。『村山造酢』は約二百七十年続く「千鳥酢」の醸造元で、素材を引き立て、風味を豊かにするまろやかな味で知られる。その秘密は、長年蔵に住みついている各種の菌の作用だという。
 「カレーの仕上げにも酢を数滴加えるとまろやかになりますよ」と、村山忠彦社長に教えられて驚いた。ほかにも、お吸い物に一、二滴落とすと風味が変わる、新鮮な魚を焼くときに少し酢をふると皮がはじけずきれいに焼けるなど、酢の効用はとても多いという。二杯酢は酢と醤油を一対一の割合で合わせるのが基本だが、これに絞りショウガをまぜたショウガ酢は、カニやエビを食べる時におすすめ。

本田味噌
本田味噌/撮影・伏屋俊邦

●しっかりとした味のなかにほのかな甘み
 本田味噌本店

 『本田味噌』は約二百年続く西京味噌の老舗。店は二百年の歳月を経た虫籠(むしこ)造りと呼ばれる建物で、江戸時代に禁裏御用を務めた往時をしのばせる資料も展示されている。メインの白味噌は、しっかりとした味のなかにほのかな甘みが特徴だ。伝統のお雑煮を食べれば、京料理とともに育ってきた優雅な味を実感する。そうかと思えば「常に新しい商品も開発しているんですよ」と七代目の本田茂社長。みそ汁を焼き麩に包み、お湯を注ぐだけで食べられる即席の「一わん味噌汁」や、「味そ菓子」などの新商品も人気だ。
 味噌は熱に弱いので、香りたつおいしいみそ汁は、火を止めてから味噌を溶き入れるのがポイント。冷めたみそ汁も水を足し、味噌も足せばまたおいしく食べられるという。

(取材・文/小国文男)

※実際の掲載紙には上記のほかに地図や住所、営業時間などを書いたキャプションがつきますが、ここでは割愛しました。写真は印刷物をスキャンしたものです。


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