京都は伏見だけでも20を超える酒蔵がある酒どころ。そんな京都府内の地酒を飲みながら、リアルタイムで綴るお酒の話。
おおむね月1更新。飲み手・書き手=小国文男
どちらかと言うと僕は、お酒、とりわけ家で日本酒を飲むときには、そのお酒だけを楽しむタイプだ。あまりアテは食べない。
ところが最近、アテがほしくなる酒とそうでない酒があることに気がついた。
たとえば先日の「桃の滴」のときには「これならアテがなくても飲めるや」というのが第一印象だったと書いた。今回は逆に、アテがほしいと思った。それが初めて飲んだ「ふり袖」の純米大吟醸だった。
ようするに辛口なのだ。一般に純米大吟醸にはまったり感があると思っていたが、そんな印象は完全に吹き飛ばされてしまった。
まず栓を開ける。芳醇な香りがほのかに漂う。コップに注いで口元にもってきて香ると、ちょっと久し振りという感じの吟醸香。うんうん、と一人で満足げに頷いて口に含む。まろやかだ……、と思ったもののしばらくして「お、辛口や」。
箱に入っていた説明書きによると、日本酒度は「+3」だという。これだと「桃の滴」よりも甘口の数値だ。酸度は「1.5」なので「桃の滴」より0.1高いが、これが効いているのか。それにしてわずかな違いだ。それなのに感覚的にはずいぶん辛い気がする。
もっとも、油長さんのサイトでは日本酒度「+5」と書かれていた。この方が感覚的には納得できる数値だが、まあ蔵元自ら書いている方が正確だろうとは思う。ちなみにメーカーサイトの同銘柄の説明とも違うが、限定品ゆえなのだろう。
日本酒度や酸度と甘辛の関係については、月桂冠のサイトにある表が、わりとわかりやすい。日本酒度が低くても酸度が高ければ辛いようだ。そうはいっても、感覚と数値とは必ずしも一致しないような感じがある。
ところで少し疑問が生じた。比較的甘いとアテは欲しないが、辛口だとアテがほしくなるというのは、辛口の方が料理との相性がいいということなのだろうか。京都の酒は京料理に合うようにわざわざ甘口にしているという話を聞いたことがあるが、はてそのこととの整合性はどうなのか。そもそもなぜ京料理には甘口が合うのか……。
それは、いまどんなアテがほしいかを考えれば、そこに答えがあるように思えた。ようするに、それなりに濃い味のアテがほしいわけだ。
たとえばいま、無性にきんぴらゴボウがほしいが、残念ながらそれはない。たまたま冷蔵庫に袋詰めの野沢菜がある。これを食べたくて仕方がない。けれども、袋を開けてしまうと一人で食べるには多すぎる。悩みに悩んであきらめた。しかしいま、たとえば茶碗蒸しを食べたいとは思わない。
つまり、一般に薄味と言われる京料理には、辛口の酒は馴染まないということなのだろうか。
この「ふり袖」は、そんなことを考えさせられたお酒だった。するとこれ、京料理好みではないということかな……。
【データ】
純米大吟醸「ふり袖」
醸造元:向島酒造株式会社
製造年月:2004年12月
原材料名:米・米麹
原料米:山田錦
精米歩合:40%
アルコール分:16度以上17度未満
日本酒度:+3
酸度:1.5
アミノ酸度:1.0