京都は伏見だけでも20を超える酒蔵がある酒どころ。そんな京都府内の地酒を飲みながら、リアルタイムで綴るお酒の話。
おおむね月1更新。飲み手・書き手=小国文男
「斗瓶」(とびん)とは読んで字のごとく1斗、つまり10升(180リットル)入る瓶のことらしい。これ自体はただの瓶だが、これが「斗瓶取り」(「斗瓶採り」「斗壜採り」とも)とか「斗瓶囲い」とか言われると、とたんにそれは手間暇かけた特別な酒の代名詞になるという。
調べてみると、もろみを木綿の酒袋に入れてつるし、何の圧力もかけずにしたたり落ちた酒のしずくを斗瓶に集めることを「斗瓶取り」と呼び、この斗瓶を蔵で一定期間保存し熟成させることを「斗瓶囲い」と呼ぶのだという(ネットではここの説明が比較的わかりやすかった)。取れる量も少なく、かなりぜいたくな酒らしい。
初めて飲んだ「斗瓶取り」は数年前、「富翁・斗瓶採」だった。神戸におみやげに持って行ったら、「こんな酒を持ってきたら、ほかの酒が飲めん」と苦情のような喜びの言葉をいただいた。ただこれは純米でなかったので、いつか純米の斗瓶取りが飲みたいものだと思っていた。
先日いつもの油長さんのWebページで物色していたら、この「斗壜採り」の文字に目がとまった。純米吟醸でしかもこれ、この店が窓口となりキンシ正宗で行われた酒造り体験で醸した酒だという。当然ながら限定品で、キンシ正宗のWebページを見ても135本限りという。かなりレアな酒だ。つい購入してしまった。
というのも以前キンシ正宗を取材した折りに、酒造り体験では袋をつり下げて斗瓶取りをするという話を聞いていた。また油長さんでも、酒造り体験をして酒観が変わったという話を聞いていた。なので、その酒が今度は売りに出されたのか、と妙に感慨深く感じたわけだ(以前はどうしていたのか知らないのだが……)。
さてこの斗瓶取り、コップに注いでみた。透明だが、無色かと思ったらほんのり黄味がかっている。酒袋から出てくる最初はどうしてもにごり酒になるというから、これは「中取り」と呼ばれる一番いいあたりなのだろうか。
とりあえず撮影したのだが、レンズを向けつつも鼻先にただよう香りが気にかかる。いわゆる芳醇な香りなのだが、それとしか言えない自分が辛い。
口に含む。そのまま喉に落とす。まろやかに気持ちよく、すっと入っていく。これは確かに旨い。
実は心密かに、僕も酒造り体験をしてみたいものだとも思ったりするのだが、たぶんついていけないだろうな、と半ばあきらめている。
【データ】
吟醸純米しぼりたて生原酒「祝・斗瓶取」
醸造元:キンシ正宗株式会社
製造年月:2004年5月
原材料名:米・米麹
原料米:祝
精米歩合:55%
アルコール分:16度以上17度未満
袋搾り・斗瓶取・しずく酒