京都は伏見だけでも20を超える酒蔵がある酒どころ。そんな京都府内の地酒を飲みながら、リアルタイムで綴るお酒の話。
おおむね月1更新。飲み手・書き手=小国文男
先日、プチ家族旅行で石川県は金沢市を訪ねた。石川のお酒と言えば、僕的には「天狗舞」だ。調べてみると、蔵元は金沢の隣の白山市。残念ながら時間がなくて寄れなかったが、近江町市場の酒屋で山廃純米大吟醸を求めることができた。
「天狗舞」にはいくつか折々の思い出がある。なのでこの際「思い出の酒」というカテゴリを追加してみようと思う。
初めて「天狗舞」に出合ったのは、もう20数年前になろうか。知人宅でのことだった。彼は一升瓶を誇らしげに見せ、来訪者に振る舞った。で、それが旨かったから、旨い酒として「天狗舞」は僕の記憶にしっかりと刻み込まれたのだった。
ある日、田舎に帰省する途中で酒屋に寄った時のこと。冷蔵ケースに「天狗舞」を見つけた。「うほっ」と思って僕は、迷うことなくそれをレジに持って行った。すると、店の中から家人らしき人があわてて出てきて「これは売り物ではありません」。どうやら自家用を冷やしていたようだ。紛らわしい。
またある日、飲み屋で「天狗舞」を見つけた。飲むのは最後にとっておき、絞めにと思って頼んだものの、かなり酔ってしまっていたことに加え、たまたま直前に飲んだのがかなり辛口だったことから、ずいぶん甘く感じたのが残念だった。
以来、旨い酒は最初に飲むべし、が僕の教訓になった。
さて、そんな「天狗舞」を開けた。いつものコップに注ぐと、明らかに色づいている。淡い山吹色といったあたりか。淡い吟醸香もただよう。
口に含んで、ちょいとズズッとすすってみる。口に広がるフルーティーな香りはぶどうか桃か。喉ごしは辛口。そんななかで、ふっと鼻腔をくすぐる香りは、熟成香? 以前飲んだ、蔵纏と共通するようなスモークっぽい香りだ。
僕の記憶にあった「天狗舞」はこうだったかな、と思える。色も香りも味も、いま飲んでいる「天狗舞」とは少し違う気がする。記憶がいい加減だったのか、造りの違う酒なのか……。
このメモが、次に飲む機会の役に立てば、と思う。
【データ】
山廃純米大吟醸「天狗舞」
醸造元:株式会社車多酒造
製造年月:2012年7月
原材料名:米・米こうじ
精米歩合:45%
アルコール分:16度