レイトニック
バーでカクテルを頼む時、そのカクテルの名前がわからなければ、たいがいはベースと味などで選ぶ。バーテンダー氏は、それを聞いてちょうどよいカクテルを調合してくれる。
いつも思うのが、その名前だ。
「このカクテルの名前は?」
「いえ、オリジナルですから、ありません」
「いや、もったいない……」
たいがいはこんな会話が、バーテンダー氏と交わされる。
今夜もそんなケースだった。
淡いブルーの色をしたそのカクテルを、女性のバーテンダー氏は「名前をつけるのは苦手なんです」と笑いながら、
「ウォッカトニックにちょっといろいろ混ぜてみました」
と説明した。
「どうせなら、名前をつけましょうよ」
「いや、そんな……」
「『レイトニック』ってどうです?」
「レイ」というのは、その女性バーテンダー氏の名前だ。それゆえにこそ、彼女は躊躇したようだった。
でも、語呂も悪くない。
「次に来た時は、これで頼みますからね」
強引にその名前を押しつけた。
僕は密かに、その名前が一人歩きしてほしいと思っている。