久しぶりに深夜映画を見た帰り、THE MAIN BARに立ち寄った。うれしいことにすいていた。午前2時半なのだから当然か。客は僕を含めて三人だった。
「今日はすいてますね」
「ええ、午前0時をまわるとだいたいすいてきます」
そうか、0時以降に来ればいいのだ。このところ混んでいることが多かったから、改めて僕は少しにんまりとした。
バーテンダー氏には申しわけないが、僕はすいているこのバーが好きだ。もっともそれは、僕ばかりではないらしい。
「常連さんやバーを好きな方は、すいているときに来られます」
とバーテンダー氏も言う。
このバーは比較的広い。ピアノなどに使うマホガニー材を使った8.5mあるというカウンターをメインに、テーブル席も四つある。バックバーには1500種のボトルが壮観だ。 この余裕が、混んでいるときでもそれほど圧迫感を感じさせない。
バーテンダーは三人。全員が元ホテルマンという。小さなバーで多少でもなじみになってくると、どうしてもこちらがバーテンダーを気にしてしまうことがある。しかしここでは、空間的な広さが自然とバーテンダーと客との適度な距離を生む。客どうしで話していても、それほどバーテンダーの存在が気にならないのだ。だから居心地がいい。
それだけに、客が数人というのはかなりぜいたくな時間だ。
あまりカクテルを知らないので、英字新聞の上に盛られたピーナッツの皮をむきながら、
「ウオツカベースですっきりする感じのカクテルを」
などと実にあいまいな注文をする。するとほどなく目の前にボトルが並び、アドリブでオリジナルカクテルができあがっていく。
「これは……?」
「オリジナルですから、名前はありません」
「いや、もったいない。もう一度これを、というようなことありません?」
「それは、たまにありますけどね……」
などとバーテンダー氏との少しの会話を楽しみ、またパートナーとの世界に戻っていく。
僕にとってこの店は、たいがい最後に訪ねる仕上げのバーだ。
いっしょにこのバーを訪ねるパートナーは、その都度違う。仕事の同業者であったり、飲み会でたまたまいっしょになった人であったり、久しぶりに会った旧友であったり、世話になった先輩であったり、いろいろだ。
もちろんそれは男性であったり女性であったり、たまにはグループであったりする。 グループの場合は、どうやら三人までが限度。言うまでもないが、ベストは女性と二人というパターンだ。
この日、僕は一人だったことが悔やまれた。
(記/1997.9)
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