費用は不要なんですが……
最近はお土産ものの店を取材している。京都への修学旅行生向けのガイドブックの仕事で、京都市全域でだいたい30軒ほどの取材に走り回っている。
相変わらずアポ取り、つまり取材の約束をとりつける電話が苦手で、いつも「エイッ」と気合いを入れないと受話器が握れないでいるが、このところ割とすんなりとOKになる確率が高くなって、ちょっとホッとしているところだ。実はそれには、ちょっとした秘訣があった。
久しぶりに訪ねたある飲み屋でのこと。
「うちにかかってくる取材の電話といったら、8〜9割は有料ですね」
「へー、そーなんですか。僕は有料の取材をしたことがないんですよ。そういえば有料か無料かって、よく尋ねられますよ」
「それなら、はじめから無料だとハッキリおっしゃった方がいいですよ。それで8割くらいは大丈夫だと思います」
「なるほど。でもなんだか、無料だって言うのが押しつけがましい気がしたりするんですけどね……」
「そんなことないですよ。ハッキリした方がいいですよ」
そんなものかと思っていたが、どうやら、それほどに有料広告の勧誘の電話があるらしく、「無料」というひとことはなかなか効果大なのだ。最初の頃はこちらが無料だという前に「うちはけっこうです」と断られてしまったが、以後はとにかく「費用は不要です」というあたりまで一気にしゃべるようにした。すると、
「このごろ忙しいんですよ」
「観光シーズンですからね、申し訳ありません」
「来てもらっても相手できしませんねん」
そう言いつつ声の調子はまんざらでもない様子。そこで、
「掲載すること自体はかまわないのでしょうか?」
「ええ、それは結構なんですけどね」
「お時間はそう取りませんから」
「そうですか、じゃあ一回来てみてくださいますか」
てな具合。飲み屋のマスターの助言はまさに大当たりだった。
しかも、「忙しい」と言っていた店でも、うれしいことに行けばけっこう相手になってくださる。
あるお店では、「忙しい」と言っていたまさにその作業の写真まで撮らせていただいたし、あるお店ではこんな会話もあった。
「うーん、うちは修学旅行生なあ、あんまり来ぃひんねんけどな」
「そうですか。じゃあヤメにしましょうか。私はかまいませんし……」
「いや、かまへんねん、載せてくれはる分には」
こうなると、何とも言えない気分で、失礼ながらおかしくて仕方がない。
しかし本来取材というのは、こちらからお願いして話を聞いたりするもので、そのために時間を割いていただくわけだから、どちらかと言えばこちらから何がしかのお礼をすべき性質のものなのではなかろうか。それにわざわざ「無料」を強調しなければならないあたり、どこかおかしいのではないかと思ってしまう。だから、決して笑い事ではないのだ。
そろそろこの仕事も大詰めになってきた。紅葉の季節になるので周辺部から責めてきて、残しているのは繁華街。あちこちによく登場しているからおそらく取材されるのには慣れていると思われるところばかり。たぶん断られる確率は低いだろうと思いつつ、しかしやっぱり受話器を握るのには「エイヤッ」と決意がいる。数軒電話するとグッタリする。
悲しいかなやっぱり僕は、アポ取りがなかなか好きになれないのだった。
(記/1999.11.23)
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