ずいぶん前、飲み屋で飲んでいた酒が美味しかったので、小瓶を数本わけてもらって訪ねる家への土産にした記憶がある。それが「桃の滴」だった。ここ数日、純米吟醸酒が飲みたいと思っていたところ、その「しぼりたて」が目にとまったので買ってみた。
このお酒、少し甘口ではなかったかと記憶している。すると、パッケージに次のような一文を見つけた。
「このところ『端麗辛口』を唱える酒が万延しているようですが、当社では『桃の滴』を代表とする『米のもたらす旨味があってすっきりした味わい』の清酒」を醸造している、と。
ようするにここの酒は、少なくとも「端麗辛口」ではないわけだ。では甘口かというと「米のもたらす旨味」だとおっしゃる。「甘口」というとなんとなく頼りなげに聞こえるからだろうか。
実際、ほんの少し黄味がかったこのお酒を口に含むと、第一印象としてはやっぱり甘みを感じる。これならアテがなくても飲めるや、というのが率直な感想だった。
実は僕は、ことお酒に関して、旨味は甘みだと思っている。そう言って同意されることは少ないが、やっぱり飲んで旨いと感じるもとは、どこかに甘みがあるからだと思っているわけだ。だって美味しいご飯は甘みがあるではないか。もちろん自然な甘みであって、砂糖を加えたような甘みでないことは言うまでもない。
僕的に、その「甘口」が許せるかどうかは、少し量を飲み続けるとハッキリとしてくる。飲めない酒はベタついてすぐに飽きてしまうが、僕好みの旨い酒は、喉ごしがだんだん辛口になってくる。そして、ついもう一杯がほしくなるのだ。
ところが、少し甘口かと思ったこの「桃の滴」純米吟醸だが、同社のサイトによると、直接この「しぼりたて」ではないが、日本酒度が「+4」で「やや辛口」に分類されている。口あたりが甘く感じるのは、ほぼ中間値の酸度のせいだろうか。
そのあたりの化学的なことはよくわからないが、この酒もコップに1杯目がなくなる頃から、だんだん喉ごしが辛くなってきた。やっぱりクセのない酒よりは、こんなのの方が個性的で面白い。改めて香った吟醸香が、鼻腔に心地よくただよった。
(記/2005.1.29)
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