山本本家は「神聖」の銘柄で知られるが、僕などは同蔵が直営する居酒屋「鳥せい」と聞くと「ああ」と思い当たる口だ。また「源べエさんの鬼ころし」もこの蔵だと知ると、「へえ、そうだったんだ」と思ってしまう。残念ながらいずれも、飲んだり訪ねたことがなかった。
その蔵の銘柄のなかに「表千家家元好み」の酒があるというので、いったいどんな味なのだろうかと興味がわいて、買ってみた。それがこの「松の翆」。箱にもラベルにも「而妙斎御銘」とあるから、現在の家元が名付け親らしい。
買い求めた四合瓶は取扱店が少ないという。つや消しの青い瓶に赤い組紐で化粧されていて豪華だ。さっそく開けてみると、吟醸香が漂ってくる。
しかし、それほどプンプンというほどではない。いつものコップに注ぐと、ほんの淡く黄味がかったお酒が透き通る。口に含むとすっとノドに落ちた。
実は少し甘口ではないかと予想していた。お茶席での懐石料理に合うお酒だろうから、ようするに京料理と相性がよいのだろう。京都のお酒が全体的に甘口が多いのは、この京料理との関係だという話は聞いたことがあった。しかし、予想は覆された。
率直な感想として「うん、これは旨い」と思った。ひとくちで言えば、とてもバランスがいい。つまり、甘口でもないし辛口でもない、かといってナチュラルでクセがないという感じでもない。それらの絶妙のバランスのなかにあるような感じなのだ。だからとても心地よいというか、さすがは家元というか、そんな印象だ。
先日飲んだ「桃の滴」と比べてみると、日本酒度が+1高い。その分辛口だ。が、酸度やアミノ酸度はいずれも低いから、その分は甘口になる。それがこんなに違う味になるのか、というのがちょっとした驚きだった。もちろん米も精米歩合も、たぶん水も違うわけだから……、ようするにまるで違うわけか。
ネットで見ているとこのお酒を「とても美味しいお酒」と紹介していた酒屋があったが、なるほどと納得した次第。
(記/2005.2.1)
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