この「京の酒エッセー」は、まず伏見の蔵元をひととおりめぐり、それから銘柄ごとにいろいろ試してみようと思っていた。しかし油長さんの紹介を見て、蔵元重複がわかっているのに、どうにも飲んでみたくて辛抱できなくなってしまったお酒があった。
それが「英勲」の限定酒「無圧搾り」。おしゃれな円筒のパッケージに入ってやってきた。こんなのは初めてだったので、瓶と並べて撮影した。
それにしても「無圧搾り」とは、言葉的に矛盾していないだろうか。
そもそも「搾る」とは「締め付けるなどして、中に含まれている水分を出す」(goo辞書)という意味だから、圧力を加えることが前提の言葉だ。すると、圧力を加えなければ「搾る」ではない。ようするに「無圧」で「搾る」などあり得ないことになる。
しかしお酒の世界では、もろみをお酒にすることを総称して「搾り」と言うのだろう。もちろん実際に圧力を加えて搾り切る。その残ったものがいわゆる酒粕だ。
もろみは、状態としては甘酒のように米を含んだ濁り酒のようなものだから、これを袋などに入れれば当然、最初は液体があふれ出る。この、何もしなくても滴り落ちることを「無圧」での「搾り」と呼んだのだと思う。つまり「斗瓶採り」「しずく酒」と同じだ。
実際、パッケージには「びん詰めし低温の冷蔵庫でゆっくり熟成」とあるから、たぶん「斗瓶囲い」なのだと思う。
むろん、こんな外見的な矛盾は百も承知でネーミングしたのだろう。パッケージや瓶を含め、個性をアピールしようとする姿勢が見え隠れする。
さてその「無圧搾り」の栓を開けた。低温熟成の故なのか、おだやかな香りだ。注いだコップはすぐに曇ってしまったが、無色透明。ひとくち。まろやかな感覚。日本酒度や酸度などはわからないが、飲むにつれ、やや辛口といったところだろうか。
このところ忙しくて、お酒をじっくり飲めなかったから久し振り。どこかのCMではないけれど、いやほんま、五臓六腑に染み渡るワ。
(記/2005.6.12)
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