ずいぶん久しぶりに飲む銘柄だ。『美味しんぼ』という漫画で純米酒を知った20年近く前、わが家の近所に各地の純米酒を扱っている酒屋を見つけ、よく買ったのがこの「花清水」だった。
店は東映の撮影所の近くにあって、当時は立ち飲みもやっていた。時折、ひょっとしたら脇役の俳優さんかも、と思えるようなおじさんたちが一杯やっていたような記憶がある。
特級とか1級とかあった頃だ。純米酒は無審査だからだとかで、ほとんど2級酒だった。「味は特級ですよ」と言われ、いつも1升瓶をぶら下げて帰ったものだった。当時はほとんど「純米」ばかりで吟醸などは飲まなかったが、銘柄による味の違いがおもしろかった、僕の純米草創期だった。
だからすでに飲んだ蔵なのだが、あんなに飲んだはずなのに、味はすっかり忘れてしまった。先日仕事で近くまで行ったので油長さんを訪ねると、店頭にはなかった純米吟醸を「すぐ近くですから」とご主人が蔵まで走って取り寄せてくださった。1本のことなのに……。
さてその久々の「花清水」を開栓。といっても、これの純米吟醸は初体験だ。カメラを向けると吟醸香が漂ってきた。実は健診だったので1週間飲まなかったのだが(悪あがきをするなといつも言われるが……)、そのせいもあってか香りがとても心地よい。
コップに注ぐと、ほとんど透明のようだが、よくよく見ると、ごく淡く黄みがかっていた。
口に含んで喉に落とすと、口から喉にかけてカーッと熱くなったような気分。これはしばらくぶりのせいだろうか。アテもほしくなってくるから僕的基準でもけっこう辛口、すっきり端麗といったところだろうか。なんとなく、ゴクゴクといけてしまいそうな気になるあたりは、これまたしばらくぶりか。
とはいえ「懐かしい!」というような感じはない。純米と純米吟醸の違いはあるが、感覚的にはやっぱり初めてのお酒だ。ようするに、それほど強烈な個性はなかったということか。実際、買ったけれども飲んでみたら好みでなかったというお酒の方が、妙に味が記憶に残っている。だからこれは、飲みやすいお酒なのだろうと思う。
(記/2005.11.27)
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