[京のお酒エッセー 2006.2]

小国文男
京のお酒エッセー

純米大吟醸しずく酒「聚楽第」(佐々木酒造・京都市)

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【データ】
純米大吟醸しずく酒「聚楽第」
醸造元:佐々木酒造株式会社
製造年月:2006年2月
原材料名:米・米麹
材料米:山田錦
精米歩合:38%
アルコール分:16度以上17度未満
日本酒度:+4.0

 食事をしながらお酒を飲むとき、食べたものが口の中にある間にお酒を含むのと、食べものを飲み下してから飲むのと、二つのタイプがあると思う。僕は飲み下してから飲むタイプだ。

 今回、何かアテはないかと冷蔵庫をあさると、クリームチーズが少し残っていた。よく見ると賞味期限切れ。かつては確かに柔らかくて「なるほどクリームだ」と思ったが、今日目にしたそれは黄色く固まっていた。しかしまあチーズだから大丈夫だろうと包丁を入れた。切るというよりこそぐという感じにも近く、お皿に並べたそれは、乾いた餅を切ったような淡い縞模様ができていた。
 このチーズを、食べて飲み下したもののまだ口の中にはチーズの余韻が残っているという段階でお酒を口にしたら、なんと、口の中でクリームが蘇ったような感じがする。なるほど、食べながら飲んで合うお酒というのはこういう感覚なのか、と改めて実感したところだった。

 そんな感覚に出合うきっかけになったのが、この「聚楽第」の純米大吟醸しずく酒だ。実は伏見の蔵をひとまわりして2巡目に入っていたが、洛中の蔵のことをうっかり忘れていた。伏見以外の京都市内で造り酒屋は2軒だが、そのひとつがこの佐々木酒造なのだ。
 銘柄はもちろん豊臣秀吉が建てた御殿に由来している。この蔵から近い智恵光院中立売交差点の少し西には、小さな「聚楽第址」の石碑もある。
 またここは、俳優の佐々木蔵之助の実家だという。僕は何年か前の朝ドラ「オードリー」くらいでしか知らないが、しばらく前に「いいとも」の「テレフォンショッキング」に、お酒を土産に出演していたのを覚えている。
 実は何年か前に取材に寄せていただいたこともある。今は代替わりしているのかどうか知らないのだが、社長さんが上品で穏やかな人なのが印象的だった。

 さてこのお酒、38%精米のしずく酒で、しかも「出荷直前まで斗瓶で低温貯蔵しました」とあるから、つまり「斗瓶取り」「斗瓶囲い」と呼ばれるものだ。キューッと冷やすより常温に近い方が香りが楽しめるのではないかと思い、冷蔵庫から出してコップに注いでも、露が消えるくらいまで待っていた。
 満を持してコップを鼻に近づける。ほんの少し黄味がかって、微妙にどんよりとした雰囲気の液体は、しずく酒の故なのだろうか。香ればうーん、いい吟醸香。なんというか、リンゴのような香り(前にも書いたような気がするが……)。
 飲むにつれてキュッと辛くなってくるが、なんだかこのごろ甘口とか辛口とかって、どうでもいいような気がしている。飲んで旨ければそれでいい、そんな感覚。おっと、もう回ってきたのだろうか。もちろんこのお酒、旨い酒だ。

 なおこの蔵は、NPOねっとわーく京都21や京都弁護士会との企画商品として、それぞれ「九条」「憲法と人権」という銘柄も醸している。勝手にないと思っていた純米も、「九条」に純米吟醸がラインナップされていたので、機会があれば飲んでみようと思っている。

(記/2006.2.12)

(2006.3.17追記)
 伏見を除く京都市内で、もう1軒あった造り酒屋は廃業していた。醸造している蔵元はこの佐々木酒造だけになったようだ。


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