口に含んだ瞬間「やっぱりそうや」と思った。このお酒は冷やし過ぎない方がはるかに旨い。飲む前1時間あまり、冷蔵庫から出していたのだ。おだやかな吟醸香に包まれたやわらかい液体が、心地よく喉に流れ落ちていった。
このお酒は以前から気になっていたものだ。とはいえ蔵の最高級酒、そう簡単に手が出るものではない。初めて口にしたのは去年の夏、油長さんの利き酒カウンターでだった。でもそのときは、期待したよりアッサリ感が強くて、ちょっと拍子抜けだった。
先日、油長さんの企画で酒蔵見学があり、このキンシ正宗を訪ねる機会があった。それでいわば敬意を表し、思い切って買ってきたという次第だ。
見学後に油長さんで同蔵の製造部長さんを囲んで利き酒会があったが、その折にもこのお酒が出た。そしてそのときも、どちらかというとアッサリ感が強かった。
部長さんの話によると、以前は端麗でアッサリしたお酒が主流だったそうだが、最近はコクのあるお酒が好まれるようになり、酒造りもそちらにシフトしてきているということだった。
これは、僕の好みの変化とも一致するところだ。するとこのお酒は、いわば時代遅れのものなのか……。
かすかな望みは、これまでの経験で、冷やしすぎない方が旨かったケースが何度かあったことだ。
はたしてその通りだった。このお酒も、たぶん常温に近いくらいの方が、冷やすよりも旨いと思う。
オリジナルの瓶だ。普通の四号瓶より背が高く、全体としてやや大きな感じがする。写真ではわかりにくいが、瓶そのものに蔵のマークが入っている。止め金付きの栓はコルクだった。口のサイズも特殊かと思ったら、いつもの注ぎ口が装着できた。
気がつくと、あっという間にコップに3杯目(といっても1合半くらいだが……)。いつもだと次第に香りもわからなくなってくる頃だが、しっかり香る。もう甘辛なんかどうでもよくて、ただただ「うーん、旨い」と口にしたくなる気分。
いずれにせよ、さすがにこの蔵の最高級酒の面目躍如だ。
(記/2006.10.23)
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