[えでぃっとはうすのときど記]

恩師の記憶

 高校時代の担任の先生はお寺の住職だった。当然だが退職後はもっぱら住職で、僕の田舎のお寺の法要や葬儀に脇僧として応援に来られているのを、帰るたびにもう何年も前から見ていた。
 実はそうした姿を見るたびに、お世話になった先生やし挨拶くらいせねば、と思っていたのだが、その機会をのがしてばかりいた。なので「あいつ、恩師に挨拶もしよらん。失礼なやっちゃ」と思われてはいないだろうか、とずっと気になっていたのだった。

 昨日、田舎で葬儀があったので手伝いに帰っていた。件の先生もまた脇僧だった。葬儀の後かたづけの最中、バッタリと対面する場面があった。チャンスだ。
「先生、ごぶさたしています。小国です」
 が、予想に反して先生はけげんそうな顔だ。
「うーん……、わからん」

 あらま……、と拍子抜けだが、30年近くたっているし、当時とは似つかないハゲ、ヒゲ、昼間なので色メガネとくれば、わからなくても無理はない。
 すると、先生はこれまでずっと僕だとは認識していなかったわけで、ならば「失礼なやっちゃ」などとも思っていなかったことになる。

 ようするに僕の勝手な思いこみだったのだ。なんだかホッとしたような、複雑な気分。

(記:2004/07/12)



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