再び京のお酒エッセー
先日「京都の酒もいいけど新潟の酒もいいよ」というメールをいただいた。ありがたいご指摘だがこの際なので、京都のお酒ばかり飲んでいる理由を書いておこうと思う。
ことの起こりは数年前だ。仕事で日本酒をテーマにした取材をした。そのとき、京都のお酒が楽しめる店が紹介できればと思ってあちこち探していた。京都・伏見は20余の蔵元がある日本でも有数の酒どころなのだが、意外にも地元京都のお酒を知らないのではないか、という問題意識からだった。 実際、全国の地酒を飲ませる店はあちこちにある。しかしそれらの店でも京都のお酒は数銘柄しか並んでいない。あるいは、蔵元の直売店や特約点などで特定の銘柄のお酒が飲める店もあることはある。でも、京都のお酒をいろいろ飲める店となると、ほとんど皆無に近かったのだ。
そんな時に出会ったのが伏見の酒屋「油長」さんだった。酒屋さんだが、日本酒は伏見の酒オンリーで、しかし全蔵の酒をすべて扱い、試飲ができるカウンターが好評だと地元の新聞でも報道されていた。 さっそく出かけて、いくつか試飲をして驚いた。実は、僕自身が「京都の酒」をまったく知らなかったと気づいたのだ。実に旨い酒がそこにあった。いまは若社長さんが切り盛りしているが、当時の先代社長にこう教えられた。 「遠くの高い酒より、地元の丁寧な酒の方が間違いなく美味しいですよ。どうしても、輸送中に劣化しますからね」 それだけではない。おそらく地元の酒は、飲み慣れた水や風土のなかで造られたものだから、自然と口に馴染むのではないかと思う。僕はすっかり納得してしまったのだ。
つまり京都のお酒というよりも、地元のお酒を地元で飲むのが一番旨い、ということだろう。だから、京都のお酒を北海道や沖縄の人にすすめようとは思わない。またどこかに出かける機会があれば、その土地のお酒を飲んでみるのが楽しいだろうとも思う次第だ。
そんなわけで僕はいま、とにかく京都のお酒を片っ端から飲んでいる。当面は全蔵制覇が目標なので、しばらく他県のお酒には目もくれない予定だ。
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