東本願寺と琵琶湖の意外な関係
もう何年も前のことだ。ネタは何でもいいというある広報紙の取材を頼まれて、東本願寺の堀の魚を記事にしたことがあった。 なにげに歩いていると、堀には大きな鯉が泳いでいるし、聞けばブラックバスなどもいるという。塀には「魚釣り禁止」の張り紙もあった。少し気になったのでお寺の総合案内に行ってみたのだ。
「堀の鯉とかは飼ってはるんですか?」 「はあ?」 「いや、ブラックバスなんかもいるそうですけど……」 「いやあ……、市民の方々が放流されているのではないでしょうか……」 「はあ……」 「あ、おたく、京都の方ですか?」 「あ、まあ一応……」 「琵琶湖疏水ご存じですか?」 「はあ、知ってますけど……」 「あそことここはつながっているんですよ」 「はあ?」 「そこを通って、ブラックバスの稚魚なんかが来た可能性はありますね。まあ、詳しいことは寺務所で聞いてください」
かくして思いもよらず、寺務所で話を伺うことになった。聞けば東本願寺は、疏水から防火用水を引いているのだという。当時、ブラックバスと言えば琵琶湖と思っていた僕にも、その接点がつながった。 話を聞いただけで記事にするはどうかと思われたので、図書館に行って資料をあさってみた。すると確かに、明治時代に「本願寺水道」と呼ばれる防火用水が疏水から引かれたことがわかった(参照1、参照2、参照3)。 で、それをまとめて簡単な記事にしたわけだが、話題が身近だったせいか、これはなかなかウケたのだった。
たまに頼まれる広報紙講座で、ほとんど必ずこの話をネタにしている。そして、この話だけはけっこうウケる。ネタはすぐ近くに転がっていますよ、という話なのだが、そんなことより「いや、あれは近所の人が放流するんですよ」といった反応が返ってきたりして、ひとしきり盛り上がる。
11月にまた、広報紙講座を頼まれた。懲りもせず、またこの話をネタにしようと思っている。ただ、せっかくなのでお寺に出かけて、近況の写真を撮ってきた。塀から「魚釣り禁止」の看板はなくなっていたが、大きな鯉はあいかわらず悠々と泳いでいた。
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