[えでぃっとはうすのときど記]

蒸し米運び

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 蒸し器にかぶせた布が、蒸気で饅頭の皮のように膨らんでいる。やがて布がしぼみ、取り払われて、10人ほどが中をのぞき込んだ。
「餅米を蒸したときみたいですね」
「そうです」
 誰かの言葉に案内の製造部長さんが答える。そして部長さん、スコップですくいあげ蒸し器の縁にトンと置いた。
「食べてみますか?」
 スコップの上には蒸し上がったばかりの酒米。まわりを削り取られて小さくなったそれは、真っ白なヒョウかアラレのようだ。
「まわりはパサパサしてます。味はないでしょ」
 でも口のなかで噛んでいると、甘くなってきたような気がした。
「どなたか、運んでみますか?」
 今度は蒸し器の縁に「みい」が乗っている。そこにスコップで酒米を乗せている。せっかくなので、手を挙げてみた。

 いつもお酒を買っている油長さんの企画で先日、酒蔵見学に参加した。春まで月1回のペースで伏見の蔵を見学するツアーだ。今回の蔵はキンシ正宗だった。
 酒蔵見学の経験は取材も含めて何度かあるが、いつも見ているばかりだった。同じ蔵で「酒造り体験」があるのも知っていたが、興味はあるもののついていけるだろうかとためらわれて、これには参加したことがない。だから、これはチャンスとばかりに思い切って体験させてもらったわけだ。
 作業は簡単だった。米を「みい」で受けて、仕込みタンクのそばの指定の場所に広げるだけだ。酒母用とかで量も多くなかったおかげで、2往復ですんだ。
 さらには、タンクの醪をかき回す体験もさせてもらえた。これもやりすぎるとダメということで、ほんの少しだったが、ちょっと感激だ。

 こんなちょっとしたことなのだが、初体験ができたのはよかった。
 家に帰ってそんな話をしていたら、「何度か行っているから?」と問われた。確かにキンシ正宗は以前も取材でお世話になったことがあり、見学は2度目だ。しかし、それは関係ない。
 ただ、シャイな僕が「はい」と手を挙げられたのは、確かにあちこちの蔵に何度が寄せていただいた、これまでの積み重ねの故だろう、と思った。

(記:2006/10/23)



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