谷瀬の吊り橋
橋の入り口には「危険ですから一度に20人以上はわたれません」との横断幕がかかっている。 「20人以上いるやんか」 子どもの声が聞こえる。まったくだ。どう見ても20人以上いるように見える。 にもかかわらず、人はどんどんわたりだす。待ってても同じ、と娘らもスタスタわたり始めた。え、ほんまかいな……。仕方がないからついて歩き始める。
プチ家族旅行で出かけた熊野古道の帰り道に寄った、十津川村の「谷瀬(たにぜ)の吊り橋」でのことだ。鉄線でできたその橋は長さ297m、川からの高さ54mで、生活用吊り橋としては日本一なのだという。昭和29年架設というから、もう56年になる。 しばらく前にテレビでも紹介されていたように思う。怖がる出演者を気楽に笑っていたが、いま橋をわたる自分に、彼を笑う資格などまったくない。
往路は人数も多くて揺れも大きく、キャンプかバーベキューを楽しんでいるようだった下の河原はもちろん、周りの景色を見る余裕もなかった。ひたすら足場になっている板を見ながら歩く。左手はワイヤーから離せない。 20人て、多少の余裕は見てあるのだろうが、ほんまに切れたらどうすんねん……。そや、いま引き返せば自分だけは助かるかも……、などと考える。おかげで終点までの297mは長かった。実際、混雑時には監視員が出て、人数制限などをするのだという。
幸い、復路は人数が少なかった。その分橋も安定していた。何より、ワイヤーにつかまらずに真ん中をスタスタ歩く方が安定してよい、と実感できたのが大きい。往路に比べるとかなりの余裕だった。が、それでも周りの景色を楽しむところまではいかなかった。
改めて、自分は高所恐怖症なのだと認識したひとときだった。
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