「人の一番セクシーなところって私、おしりじゃないかって思うんですよ」
そう言って、平木志乃さんは笑った。なるほどこれはおしりかと妙に納得。作品は140cmだが台まで入れると170cm、大人の背丈ほどになる。平木さんがテーマとする「現存する痕跡」シリーズの作品のひとつで、「〜気〜 an indication」がそれだ。
平木さんは作品に、土だけでなく紙や布を使う。紙は新聞紙。シュレッダーで細かく刻んで泥しょうにつけこみ、それを絞って石膏板の上で形を作り、焼く。
「紙を焼くって……?」
「もちろん紙は燃えてしまって、土だけが残ります。紙の部分が空洞になったり、インクは顔料ですから、それが釉薬の効果を果たしたりするんですよ」
シリーズの作品「水音」では、新聞紙のインクが電気窯のなかで黒い模様を形づくった。目の前に置かれた菓子器は、たまたまネコがキズつけたとかで少し欠けていたが、そのおかげで空洞部分がよくわかる。そして手に持つと、見た目よりはるかに軽くてフワッと浮かぶよう。
「照明のシェードにもいいですね」
同席していた佐々木奈美さん(KIA広報委員)が菓子器を逆さにしてかざしている。
「私、土で作られた作品が重くて、固くて、丈夫っていう、その見た目が好きになれなくて……。土は値段が高いし、大きなものだと一人で動かせないっていうこともあるんですけどね。だから私は異素材を使って『重くなく、固くなく、丈夫でなく』と」
一見するともろくも見えるが、これは平木さんの大きなテーマ「現存する痕跡」にもつながる。
「つまり、作品も半永久的に残るのではなく、時間の流れによって朽ちてなくなってしまう。そこに残る痕跡をイメージして復元していくっていうか……」
朽ちるということは、菌という微生物が大きな役割を担っている自然の摂理。そういえば「人間は朽ちるものを作らなければいけません」と言った生物学者がいたことを思い出す。「重くなく、固くなく、丈夫でなく」というのは、どうやらかなり理にかなっているのかもしれない。
もっとも、その技法の独創性ゆえに大学では異端児だったと笑う。
「よく窯をこわして叱られたんですよ」
その窯も、つい最近自分専用のものができた。これからは誰はばかることなく窯をこわせる、いや失礼、作品にとりくめる。
陶芸だから土と固定せずに、さまざまな素材に挑戦していく姿に共感。平木さんの生み出すこれからの「痕跡」に期待したい。
【文/小国文男・フリー】
(記/1997.8)
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