[2007.9]

ブログ「認知症一期一会」〜認知症本人からの発信〜

水木 理著・社団法人認知症の人と家族の会編/(株)クリエイツかもがわ発行/(株)かもがわ出版発売/A5判176ページ/定価1,800円+税



認知症一期一会

 ブログ「認知症一期一会」は、認知症の本人である水木理氏が自ら発信するブログです。2005年の11月3日に始まり、2年近くで683本(2007年9月15日現在)の記事が投稿されています。もちろん今も日々書きつづられています。
 そのブログから100本をセレクトして1冊にまとめたのがこの本です。私はその編集作業をしました。
 この方のブログの文章には、不思議な魅力があると思います。認知症に直接かかわる話題はもちろん重要ですが、私は、日常のちょっとした出来事を記したブログが好きです。そこに奥さんの「笙子さん」が登場すると、ますます好きです。
 たとえば「太ったウグイス」。ウグイス色のエプロンのせいで「ばかに太って見えた」笙子さんに、何か言いたいのかと問いつめられて口にした言葉──。
「ウグイス色の……エプロンさ」
 なんと絶妙なひとこと。舞台となっている食卓の様子を思い浮かべながら、私は思わず膝を打ちました。
 あるいは、お孫さんと五目並べをしている「二勝五敗」。すっかりお孫さんに勝てなくなっていた五目並べでしたが、お医者さんの「よくなっています」の言葉に力づけられ、久々の勝利。
「じゃーん。じいちゃんの勝ち」
 このひとことが水木氏の気持ちをすべて表しているようで、何とも言えないほのぼのとした気分になりました。
 さらに「鶴の一声」。京都での発表に着ていく服装を迷っていた水木氏に、笙子さんが「これにしな」と決めます。そのしめくくり。
「こういう時の……笙子さんの『鶴の一声』は、決定的で気持ちがいい。私もこれで、迷いはない」
 笙子さんへの感謝の気持ちが読み取れてさわやかです。
 しめくくりと言えば、最後に味のある1〜2行が配置されることもしばしばです。たとえば「ビデオを見る」のしめくくりの1行は意外でした。
「悲しい気持ちに一瞬でもさせたことを悔いました」
 話の流れからは、「それとなく心理テストをした」笙子さんへの憎まれ口か、あるいは不本意な答えになった自分自身への励ましのようなパターンを予想したからです。それだけに、涙が出るほど素敵な1行だと思います。
 こうして私も、編集をしながら水木氏のブログの愛読者となりました。


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