[2011.9]

マルセ太郎読本─芸と魂・舞台裏・人間を語る

『マルセ太郎読本』刊行委員会編/(株)クリエイツかもがわ発行/(株)かもがわ出版発売/A5判210ページ・DVD付/定価2,200円+税



マルセ太郎読本

 マルセ太郎の没後10年を機に出版された本です。私は原稿整理などのお手伝いをしましたが、特に印象的だったのは2本の立体講談、「桃川燕雄物語」と「中村秀十郎物語」にふれたことでした。前者は講談師の、後者は大部屋の歌舞伎俳優の話です。仕事をしながらかなり、マルセ太郎の世界に没入したような気がします。

 10年前に亡くなっていますが、リアルタイムで見ることができた世代なので、名前に記憶はありました。とはいえ、どこかでマルセ太郎の芸に触れたような気もしないではないのですが、ハッキリとした記憶はありません。
 この人を世に出したのは「スクリーンのない映画館」だそうです。いわば映画の一人芝居。確かにそれは見たことがありません。今回、ビデオ映像を少し見ることができましたが、語りながら演じているそれは、なるほど「スクリーンのない映画館」です。

 しかし、文字にして本に収録したのが立体講談だったのは、正解だったと思います。
 というのは、いくつか録音も聞きましたが、何かしらの演技をすればその間、口は止まります。つまり話が途切れるわけです。その場にいる人にはよく理解できますが、音から文字に起こしたものを読んでも、たぶんさっぱりわかりません。それゆえかマルセ太郎自身も、生の舞台にこだわったといいます。

 その点立体講談は、もともと演技が少なかったのか、語りが中心で音が途切れることはあまりありません。ガンで亡くなる半年前という最晩年の舞台の録音でしたが、もしかしたら、そのせいだったのかもしれません。いずれにしても、とても味があったように思います。
 ですからそれを文字にしたものも、かなりの読み応えがあります。何よりおもしろい。ぜひご一読いただきたい一冊です。


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