楽しいひとときを演出するワインは、もっと気軽に楽しみたい
突撃ルポ●ワインをおいしく飲める店
ワインを楽しむ人が増え、世は空前のワインブームだと言われる。その一方で、ワインには高級とか難しいというイメージもあって、ちょっと店の敷居が高いと感じる方も少なくないだろう。
そこで今回、ボルドーもブルゴーニュも知らず、「シャトー・マルゴーって何?」というほどワインにうとい筆者が、ソムリエをはじめワインのプロたちに「突撃取材」した。
意外にも、ブランドやうんちくより「飲んでおいしければそれでいいんですよ。だってワインは楽しむための材料なんですから」という言葉が返ってきた。「もっと気軽にワインを楽しんでほしい」と。そして「ワインに詳しくなくても、予算と好みを言ってもらえれば大丈夫」とも。なるほど、かまえないでプロに聞けばいいのだ。実際、リーズナブルで豊かなワインに出合った。
ワインとチーズを楽しむ小さな別荘
●ラ・カシーヌ(La Cassine)
「ラ・カシーヌ」は、河原町竹屋町にあった「バール」が移転して2月にオープンしたばかり。ワインとチーズをメインにした京都でも珍しいスポットで、若い人たちにも人気だ。
カマンベールやブルーチーズのほか「激臭、激辛も」というチーズが20数種類。好みで切り分けてもらうワゴンサービスだ。それをパンに乗せて食べながらワインを楽しむのがここのスタイル。ワインは約130種類を常備している。
オーナーの柳忠志さんは社団法人・日本ソムリエ協会認定のソムリエで、かつては都ホテル、現在は各種の学校で若手の育成にもつとめているベテラン。「お客様に恥はかかせませんよ」と頼もしい。
ずらりとフランス語のワインリストに動揺したが、「値段確認の小道具ですよ」とか。なるほどと安心してセレクトしてもらったのはアルザスワインで、ジョスメイヤーのトケイ・ピノ・グリ(白)96年。残ったので持ち帰って数日後に飲んだら、意外やふっくらとして一段と美味だった。「これはそういうワインですよ」と柳さん。ワインの世界がひとつ広がった。
「ラ・カシーヌ」とは「小さな別荘」の意。ワインとチーズを友に、ゆったりと時間を過ごしてほしいとの願いがこめられている。
雰囲気幕末、気分は竜馬、ワインを飲めば「うまいぜよ」
●かしく コルドン・ブルー(Cordon Blue)
南禅寺の参道にある「かしく コルドン・ブルー」は、元は旅館だったという建物を改造した欧風家庭料理の店。畳の上に赤いカーペットを敷いてテーブルがセットされ、幕末か明治維新の頃の雰囲気だ。
小学生の娘を連れて家族で訪ねた。丹後の伊根から取り寄せたマトダイのポアレをメインディッシュとするプチディナー。伊根の魚介類はここのウリでもある。ワインは「フランスのガスコーニュ地方の、いわば地酒ですよ」とヒゲのマスター薮田進さんがすすめるヴァン・ド・ペイ・ガスコーニュ(白)。渋みや酸味は薄いが、日本酒の地酒ファンの筆者にはとてもナチュラルで好感がもてた。「無名でもおいしいワインがたくさんありますよ」というマスターの言葉がうなずける。
ヴァン・ド・ペイから格付けのシャトー・ワインまで料理に見合う手頃な値段のワインを20数種類常備。フランスワインが主だが、南米チリのワインなども。欧風料理なのに箸でいただく。器も和風のうれしい店だ。
あなたもきっとシャンパンの美しさに見とれる
●アニバルセール(ANNIVERSAIR)
「アニバルセール」は、レストラン「エルゴ・ビバームス」の地階にある数少ないシャンパン・バー。馬の蹄鉄のような白いカウンターに14席のこぢんまりとした空間だ。
シャンパン約10種を含む約50種・800本のフランスワインを常備。スタッフは森本将也さんと山岡拓さんの二人。森本さんはワインセラーから数本を取り出すと、ボトルを地図のように並べた。
「これはボルドーのワインで、フランスの南西の方。これはブルゴーニュですから東部、このへんですよ。シャンパンはシャンパーニュ地方ですから、パリよりもっと北のこのあたり……」
「それ、わかりやすいですね」
そんな話をしながらセレクトしてもらったシャンパンはドゥ・メリック。シャンパングラスに注ぐと底から小さな泡がゆらめきながらテンポよく上り続けている。その美しさにしばし言葉を失った。カウンターの色も、実はこの泡が映えるようにとの演出だ。飲めばすっきりとした味で、ほろ酔い気分にさわやかな爽快感が漂う。
気軽にもう一度、ふらりと訪ねてみたくなる店だ。
一度はここでリッチな気分を味わいたい
●ピトレスク(PITTORESQUE)
京都ホテル17階にあるフレンチレストラン「ピトレスク」は東山の眺望が美しく、大切な人といっしょに訪ねれば、すてきな時間を共有できること間違いなしだ。
同ホテルには、社団法人・日本ソムリエ協会認定のソムリエが5人いる。約250種・3000本のワインを常備しているのもホテルならではだ。
「ワインは飲むごとに新たな喜びを与えてくれますね。回を重ねれば誰でも味を理解できるようになりますよ。堅苦しく考えないで、何でも気軽にソムリエに聞いてください」
と、シェフ・ソムリエの西別當選さんはにこやかに話す。朝日会館にあった「リヨン」や東京・銀座の「レカン」で修行を積み、京都ホテルに招かれたベテランだ。
ここでは、ブルゴーニュのシャトー・ドラシー・ピノノワール(赤)の93年ものをテイストさせていただいた。上品な渋みが口いっぱいに広がった。
ここのほか鉄板焼きレストラン「ときわ」にもソムリエが常駐。また、ホテル直営レストランならどこでもソムリエに来てもらえるし、ワインが半額になる毎月20日の「ワインの日」もうれしい。思い切って出かけてみてはいかが。
(取材・文/小国文男)
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