[2000.3]

「京の味散歩」2000年版

京都朝日事業センター発行、企画・編集/(株)クリエイツかもがわ、部分取材&原稿



地元京都のお酒を存分に楽しもう
京の酒散歩

油長
吟醸酒房・油長
伏見いっぷ蔵館
伏見いっぷ蔵館
大倉記念館
月桂冠大倉記念館
おきな屋
酒と米・おきな屋
佐々木酒造
佐々木酒造
安田酒造
安田酒造
撮影/いずれも有田知行

 酒どころ伏見をもつだけに京都には全国ブランドのお酒も多いが、規模は小さくても地元と密着して美味しい地酒を造っている蔵元もある。伏見、京都両酒造組合では近年、それぞれ市民向けのきき酒会を開催するなど京のお酒をアピールする取り組みにも力を入れている。地元京都のいろいろなお酒を味わいたくて、酒屋や蔵元を訪ねて歩いた。

●京・伏見のお酒の旨さを再発見
 伏見の酒屋と蔵元散策

 伏見大手筋商店街にある酒蔵をイメージした白壁の店構えの吟醸酒房・油長(あぶらちょう)。一見普通の酒屋だが、伏見の二十五軒の蔵元全ての銘柄を揃え、きき酒も楽しめるカウンター・バーがある。買えば高価な銘柄も廉価できき酒できるのはうれしい。壁に張り出された「人気ベスト10」を頼りに選びセットを頼む。つきだしの豆腐は口直し用だ。「こんなにたくさんあるのか、日本酒ってこんなに飲みやすいのかと驚かれる方が多いですよ」と専務の奥田浩二さん。もちろん筆者も京都のお酒再発見、という気分を味わった。

 そこから南へ数分、大正時代に建てられた月桂冠の旧本社屋を利用し、土日と祝日だけオープンする伏見いっぷ蔵館がある。大手筋、納屋町、風呂屋町、竜馬通の各商店街と伏見料理飲食業組合、伏見観光協会などがまちおこし事業として一九九九年秋から始めたもの。伏見の二十五銘柄から週替わりで各三銘柄ずつ三セットのきき酒が楽しめる。終日観光客らでにぎわっていた。

 さらに南に歩くと、年間九万人の入館者でにぎわう月桂冠大倉記念館。創業以来三百六十余年、全国ブランドの「月桂冠」だが、実はここでしか買えないお酒がある。明治四十三年にコップつき小びんで発売された「鉄道省駅売り酒」を再現した吟醸酒「月桂冠ザ・レトロ」がそのひとつ。「これが本当の旨口ですよ」と同館の藤井元三さんがすすめる通りの芳醇な味だ。見学しないと買えないのかと思ったら「お酒を買うだけでもどうぞ」とのこと。

 大手筋に戻って西へ。濠川のたもとに酒と米・おきな屋がある。「富翁(とみおう)」の蔵元で創業三百四十余年の北川本家が一九九六年にオープンしたもの。ここでは蔵元ならではのお酒を量り売りしている。タンクから注がれる大吟醸純米生原酒はさっぱりとした旨みが心地よく、よく利用するという地元の方々がうらやましくなる。銘柄が季節によって変わるのも楽しみだ。

●小さくて地元密着だからこその味わい
 洛中の蔵元探訪

 京の町にはその昔、三百を超える造り酒屋が軒を連ねたというが、現在は三軒になった。そのうち市内で自社醸造している二つの蔵元を訪ねた。

 佐々木酒造(上京区)は「聚楽第(じゅらくだい)」「古都」「西陣」などの蔵元で明治二十六年創業、丸太町通智恵光院に近い。吟醸酒や純米酒、本醸造酒に力を入れて十数銘柄。社長の佐々木勝也さんは「小さな蔵ですから、大手とは違うものをていねいに造っています」と話す。近年は二月に「蔵人しか飲めない」新酒のしぼりたて、濾過も火入れもしない自然なままのお酒の蔵元限定販売もしているという。その濃厚な味は感激ものだ。

 安田酒造(中京区)は百五十年続く「龍盛(たつざかり)」「保寿泉(ほじゅせん)」の蔵元で、三条会商店街の一角にある。保寿泉は昔、保津川の崖にあった泉で、当時はその湧水を使ったというが、現在は京都三名水の一つ「染井」の水を使用している。ベテランの但馬杜氏・長谷坂憲一さんに築三百年という蔵を案内してもらう。比較的小振りのタンクがたくさん並んでいるが、「いろいろなお酒を少しずつ造っているんです」と女将の安田洋子さん。全体にさわやかな辛口系のお酒がここの主流だ。

(取材・文/小国文男)

※実際の掲載紙には上記のほかに地図や住所、営業時間などを書いたキャプションがつきますが、ここでは割愛しました。写真は印刷物をスキャンしたものです。


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