京都は伏見だけでも20を超える酒蔵がある酒どころ。そんな京都府内の地酒を飲みながら、リアルタイムで綴るお酒の話。
おおむね月1更新。飲み手・書き手=小国文男
先日もまた油長さんの企画で酒蔵見学があり、松本酒造に行ってきた。なので今回は、「日出盛」の純米大吟醸を飲んでみようと思っていた。それが看板銘柄だと思っていたのと、以前にこのコーナーでも「桃の滴」純米吟醸しぼりたてを飲んでいたからだ。
ところが常務さんの話を伺っていると、蔵のメインとして純米酒を醸造することにし、他蔵といっしょに純粋日本酒協会を立ち上げた頃、従来の「日出盛」とは別に純米酒としての銘柄を作るべきだろうと考えて、できたのが「桃の滴」だったのだという。
まずここで、純米酒党の僕としては「ムムム…」である。そうと知ったからには、改めて「桃の滴」をしっかり賞味すべきではないか、と。さらに聞けば、同じ「桃の滴」でも米が違い、純米吟醸は五百万石だが、純米大吟醸は山田錦だという。しかも常務さん、味の決め手は米だとおっしゃる。ということは、吟醸と大吟醸ではまるで違う酒ではないかと思える。
そんなわけでコロリと方針を変えて、純米大吟醸「桃の滴」を買って帰ってきた。約700キロリットルという小さなタンクで、ていねいに醸したお酒だという。
常務さんの話を聞きながら、そうだったのか、と思ったことがいくつかある。
まずひとつは、大吟醸というのは「あっさり」しているものらしいということ。僕はこれまで、逆にまったりしている、少し濃厚という印象をもっていた。むろん、そうではない大吟醸に出合うこともしばしばなので、たまたま最初に飲んだ時の印象を一般化してしまったのかもしれない。
実際、この純米大吟醸「桃の滴」は、思ったよりまったり感は薄い。吟醸で感じた飲み始めの甘味よりは、少し落ち着いた「旨み」という印象が強い。油長さんのサイトでもこのお酒のコメントで「純米吟醸が濃く感じた方はこちらを」とあるが、なるほどこういうことかと思える。
もうひとつ、以前純米吟醸を飲んだ時に感じた、最初は甘く感じるが次第に辛くなってくるというのはなぜか、狙ってそういうお酒にしているのか、と聞いてみたのだ。
「最初は味に敏感だった舌も、酔うにつれて鈍感になっていきますからね。お酒の方は変わっていません」
ようするに、飲み手が酔っぱらったから、ということらしい。なーんだ、という気もするが、最初から味気なく感じるお酒もあるので、そう単純でもないのではないか、という気がまだしている。
ところで新たな疑問がひとつわいた。同じ銘柄なのに原料米が違うというのをどう理解すればいいのか。
僕の感覚では、純米、純米吟醸、純米大吟醸というのは、いわばグレードだ。同じ銘柄ならば原料米は同じで、精米歩合の違いがこのグレードの違いだと思っていた。だから、原料米が違えば銘柄も別にする方がいいのではないか、と思うわけだ。
この点はこの蔵だけのことではないと思うので、またどこかで聞いてみようと思う。
【データ】
純米大吟醸「桃の滴」
醸造元:松本酒造株式会社
製造年月:2006年11月
原材料名:米・米麹
原料米:たぶん山田錦(兵庫県産)
精米歩合:たぶん40%
アルコール分:16度以上17度未満