京都は伏見だけでも20を超える酒蔵がある酒どころ。そんな京都府内の地酒を飲みながら、リアルタイムで綴るお酒の話。
おおむね月1更新。飲み手・書き手=小国文男
「全米」というのは、初めて目にする言葉だった。お酒を入れたパッケージを開くと内側に解説が印刷されていて、それによればマスコミでも大きく取り上げられたそうだが、僕は知らなかった。瓶のラベルには「純米酒ではありません」と書いてある。原材料には「醸造アルコール」も明記してある。「全米」っていったいどういうことなのか。
冷蔵庫でしっかり冷やせていたからだろうか、「お部屋中まっ白になっても当店は一切関知致しません」との注意書きのある「保存と開栓のご注意」に書かれていたほどには、この「ピチピチ」は暴れなかった。むしろビンを振って、沈殿したオリをまぜたくらいだった。
同様のにごり酒をつくっている蔵は京都にも「月の桂」があって、先日も「龍馬に恋して」を飲んだところだが、その時はけっこう暴れた。だから、もちろん慎重に、ゆっくり振ったことは言うまでもない。
地元のお酒を地元で飲むのが一番旨いからとここ数年、京都のお酒ばかりを飲んできた。しかし東日本大震災に直面したいま、そのお酒を飲むことが復興に多少なりとも役立つのであれば、喜んで東北のお酒を飲もうと思う。
ネットで酒蔵を検索してみた。「東北の日本酒を飲む会」なるサイトがあった。さすがに東京までは足を運べないが、その出展蔵名簿を見ていてまず気になったのが、この「蔵粋(くらしっく)」だった。
前回「何か話題の題材を銘柄に使ったお酒はあまり好まない」なんて書いておきながら、まさにクライマックスを迎えている大河ドラマで話題の銘柄を買ってしまった。はは、はははは……。
実はこの蔵、その手のネーミングが多いほうだと思う。でもこの蔵のお酒は好きだ。特に「にごり酒」シリーズは大好きだ。これは従来のシリーズに比べてアルコール度数が15度と、2度だけライトなタイプ。「もちろん、発泡感が損なわれることなく、さわやかな飲み心地」と、油長さんのネットショップで紹介されていた。
なので、この際ネーミングはどうでもよくて、久しぶりに月の桂のにごり酒、それもさわやかなのを飲みたくなって買ってみた。1,838円も魅力的だった。
一般に、何か話題の題材を銘柄に使ったお酒はあまり好まない。その話題に乗じて売れてほしいという希望なのだろうが、そのお酒の成り立ちとは何の関係もないからだ。もちろん、銘柄が必ずしもそのお酒を表現しているとは限らないが、定着すればそれはそれでそのお酒の顔にはなるだろう。
というわけで今回の「京の弁慶」も、弁慶にちなんだお酒の類というのが第一印象だった。ところが、油長さんのネットショップの解説を読むと、「辨慶」という幻の酒米を使ったお酒だという。しかも限定2,500本。それも玉乃光の純米大吟醸で1,575円ときたら、もう買わずにはいられなかった。
以前、松本酒造に横文字の銘柄のお酒ができたらしいという話を耳にして、気になっていた。蔵のサイトを見ると、それが「RISSIMO」だった。なんでも、イタリアンレストランのシェフと共同開発した、イタリア料理に負けない酸味をもつお酒なんだという。
確かに、たとえばパスタを食べながら日本酒を飲んだことは、考えたことも実際にも、たぶんないと思う。どんなお酒だろうと思って、蔵元のオンラインショップで買い求めてみた。
「おとうさん、いまどんなお酒が飲みたい?」
唐突に娘が聞く。
「『蒼空』やな。『愛山』ってのが新しく出てるみたいやねん……」
実はちょうど、ネットで物色していたところだった。
「けど何でや?」
「父の日やんか」
「あ、そうか……。そりゃおおきに」
こうして思いがけず、久しぶりに「蒼空」を味わう機会に恵まれた。
「微炭酸なんです」という声に、思わず振り向いた。「あ、活性酒なんですか?」「はい」……。
機会があって訪ねた木下酒造の蔵元売店でのこと。いっしょだった娘が冷蔵ケースを見て「無濾過生原酒と手つけず原酒はどう違うん?」と聞くので、「店の人に聞いてんか」と言った直後のことだった。
そうと聞けば食指が動く。実は頼まれておみやげを買いに来たのだったが、自分用にこの「手つけず原酒」も買ってしまった。
しばらくぶりに油長さんの通販サイトをのぞくと、「初夏のお勧め 時期限定酒」というキャッチでこの「生詰」が目に止まった。「生詰」というのはこの場合、瓶詰めの際の火入れ(熱処理)をしていないお酒のことだ。「英勲」の純米大吟醸で1,680円はお手頃と思えた。