ワインとタバコ
年末から、ちょっと気の重いワインの取材をしている。話を聞けば聞くほど、ワインの世界は奥が深い。
「うちはヴァン・ド・ペイから格付けのシャトーワインまで揃えています」
「すいません、ヴァン・ド・ペイって何ですか?」
「ああ、これはワインのランクですが、日本酒の地酒のようなものですよ」
「なるほど。じゃシャトーって?」
「これは醸造所ですね。ボルドーではブドウ畑の持ち主が醸造所ももっていますね。そのシャトーに格付けがされているんですよ。これは1855年に……」
「あ、すいません、ボルドーって?」
「これは産地ですね。ボルドー地方ということで、そこでできたワインをボルドーと呼びます。ブルゴーニュになるとまた違って、畑ごとに格付けがされていましてね……」
「はあ……」
まあ、こうした僕の超初歩的な質問に腹もたてずに教えてくださるのは実にありがたいが、こっちは情けない。よくもこれでワインを取材しようなどと考えたものだと、我ながらあきれてしまう。
それでも、感じた印象でとりあえずひとつ原稿を書いたが、ワインについてもっと詳しく書けと朱が入って返ってきた。
うーむ。こりゃダメだ。少なくとももう少し基礎的な知識を得ないとどうにもならん。というわけで、ワインに関するWebページを探した。似たような話がるる書かれている。それから本を探しに本屋に出かけた。
そこで見つけたのが田崎真也『ソムリエを楽しむ』講談社1996年。なんでも著者は95年の世界最優秀ソムリエコンクールで優勝したとか。年齢を見たら同年輩。うーむ……、と思いながらパラパラめくる。
「もっと単純に『所詮ワインはただの飲み物だ』と考えれば、ワインはもっと楽しく飲めると思う」
おお、なんと単純明快。さすが一流。一流と超初心者っていうのは、ひょっとして紙一重かもしれないなどと、変に感激した。
そうなのだ。ワインだって酒だ。酒は楽しんで飲むものだ。わからんことは店の人やソムリエに聞けばよいのだ。彼らに任せた方が、どれほど美味しいワインにありつけることか。そのためには店の人とのコミュニケーションがポイントだ。
これが、これまでの取材での感想だった。だけど、こんな原稿を書いたら3行で終わってしまうもんなあ……。かといって、下手にワインについて書いたら、どうころんでも中途半端になる。やっぱり、そんなことは書かんとこ。
よし! まずはとりあえずこの本を読もう。ところで、ワインを飲みながら気づいたことがひとつ。タバコだ。タバコを吸うとワインがまずくなる。ほかの酒ではさほど気にならないが、ワインは特に影響があるように思った。
ためしに先日、一切タバコを吸わずにワインと食事を楽しんだ。
「高級ワインを好まれる方が多いですが、こうした無名の美味しいワインがたくさんありますよ」
とマスターおすすめのヴァン・ド・ペイはガスコーニュの白。渋みや酸味といったワイン「上級者」が好むといわれる味は薄いが、僕にはナチュラルな感じでとても好感がもてた。そして、料理がまたうまい。心から任せてよかったと実感した。
実はこれは、今回の取材中で初めての感覚だった。これまでは、どうやらタバコが邪魔をしていたようだ。愛煙家にはちょっと酷かもしれないが、ワインを飲む時はタバコはやめた方がよい。これ、ワインについて自信をもって言えることの記念すべき第1号なのだ。
(記/1998.1.6)
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