なかなか商売人になれない僕
かなり長期間にわたって作業してきた仕事がようやく終わりに近づいたので先日、最終的な見積書を送ったところ、すぐに「会計担当の○○ですが」と電話がかかってきた。
「この見積りは、がんばって勉強してくれはったんやろか?」
「そりゃもう、もちろんですよ」
「いやー、うちねー、予算がねえー、きびしくてねえ……」
「はあ……」
「ちょっとこの端数、引いてくれはらへん?」この仕事、印刷も含めて請け負ったので、額的にはけっこう大きくなった。だから端数といっても、先方の言っているのは万単位の話。とはいえ、印刷代は印刷所に右から左だから、僕の手元に残るのは3分の1くらい。ハード50%、ソフト50%という話も聞くが、それに比べれば僕の取り分はずいぶん少ないのだ。そこを値切られては、実はかなり痛い。
「あはは、かないませんなあ……」
「おおきにおおきに、ほなそういうことで」
こんなことなら、あと数万円でも乗せておけばよかったと後悔したが、もう後の祭りだ。この手の話は同業者に限らず、仲間うちの若手経営者ともよく話題になる。
「こっちは精一杯安い見積書作って持って行くやろ。そやけどそれ見て『これはわかった。ほんで……、なんぼやねん』とくる。かなんで」
「相手の予算と合わへんかったら、合うまでやり直しさせられるしなあ」
と、こんな感じ。慣れた商売人は、初めから値切られることを予想して値段をつけるらしい。ずっと前、店頭価格は3倍くらいの値をつけているという話も聞いたことがある。「どうせ、ごっつう値切られるんですわ」と言うのだ。
だから、こうした人たちを相手に「ようけ値切ったった」と喜んでも何の意味もない。相手の方が一枚上だからだ。喜ばせておいて自分も損はしない。このあたりが商売人なのだろうか。そこへいくと、僕などは根っからの商売人でないし、元来気が弱いものだから、なかなかこれができない。というより、うまくいかない。
たとえば、値切られることを覚悟でちょっと高めの見積もりをする。すると「いやあ、値段が合わへんし、今回は見送りますわ。おおきに」と、断られたことが何度あったことか。
その上ある雑誌の酒の取材など、はじめから原稿料も安いし取材費も出ないとわかっていながら、取材と称して対象の店に飲みに行っては赤字にしている。当初はこの仕事が何かのきっかけになりはしないかなどと考えて「商売抜きや」とはりきったが、3年たっても何の効果もなく、「赤字男」ということだけが有名になってしまった(涙)。
そんなわけで、いつまでたっても儲からない。商売人への道は、まだまだ険しい。
(記/1998.2.6)
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