[ひとりごと(1998.2.7)]

サイコロステーキ

 フォルダを開いたらふと目にとまったファイル。開いてみたら、エッセイ用にと思って97年9月2日に書いたものの、ボツにしていたものだった。せっかくなので、ここで紹介することにした。

※ ※ ※

 ある日のわが家の夕餉でのことだった。
「もうそれ以上とったらあかん!」
 突然、小学校6年生の娘が叫んだ。
 食卓の上にはサイコロステーキが大皿に盛られている。3年生の妹がそれをせっせと自分の皿に移していた。彼女の前の皿にはすでに4個のサイコロステーキが並んでいる。そして更にとろうと、彼女は箸をのばしたのだ。その時のことだった。

「何でぇ!」
「私だって4つしか食べてへん!」
「あとひとつだけ!」
「あかん!」
「あとひとつ!」
「あかん!」
 姉の叫び声が次第にエスカレートしていく。妹は母親に助けを求めるように眼差しを向けた。
「おかあさんだって少ししか食べてへんで」
「いやー、あとひとつだけー!」
 期待を裏切られて、彼女は半泣きになってきた。
「あと、ひとつだけ!」
「あかんて言ったらあかん!」
 とうとう彼女は完全に泣き出してしまった。

 うーむ、わずか1cm角の小さなサイコロステーキ1個をめぐってケンカして泣く。なんともまあ平和ではないか。ちなみにわが家は4人家族。その日のサイコロステーキがピッタリ16個だったかどうかは定かではない。
 教訓「サイコロステーキは銘々の皿にあらかじめ分けて盛るべし」
(もっとも数日後、この教訓はあっさりやぶられ、再び大皿にサイコロステーキが盛られていた)

 まあ子どものことだからなあと思っていたら、それからしばらく後に似たような場面に出会った。
 ある広報紙の仕事で、社員食堂をよく利用している人のインタビュー記事の取材をした。相手は若い独身女性ばかり5人。いろいろな話が出たが、その中にこんな声。
「ショーケースのサンプルと実物で量が違いませんか?」
 細かいチェックだ。
「たとえば、サンプルにはブロッコリーが3個乗っていたからそれを食べようと頼んだら、実際に来たのは2個だったんですよ」
 彼女はよほど気になっているらしく、取材に同席していた役員をひっぱって行ってサンプルと実物を比較し「ね、違うでしょ」。役員氏は「確かに……」とうなづくしかなかったようだ。
 うーむ、これまた小さなブロッコリー1個のことなのだ。

「1円を笑う者は1円に泣く」と言われるから、これらの話、笑っちゃいけない。でも僕は、笑ってしまった。

(記/1998.2.7)


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