[ひとりごと(1998.3.12)]

春の雨

 タイトルに「春の雨」と書いて、どこかで聞いたような響きだと思ったら、エッセイのコーナーで紹介した野寺夕子さんの本『春の布団』(「野寺夕子の不思議な世界」参照)だった。もちろん、これから書くのはこれとは全く関係ない。

 僕は花粉症だ。もう15年つきあっている。早く別れたいが、なかなか縁を切ってくれないから困ったものだ。数年前に耳鼻科でアレル源を調べてもらったら、スギ花粉だった。まあ正統派花粉症というべきか。だから僕は、ゴミ箱のティッシュの量の急激な増加と目のかゆみで、春の訪れを知るわけだ。
 近年、特にフリーになってからは、それまでに比べて外に出ることが少なくなり、室内でMacに向かっての仕事が多くなったせいか、症状は比較的ましになったが、それでもこの季節はうっとおしい。

 花粉症の始まりは、学生時代を過ごした名古屋から京都に帰ってきたとたんのことだった。鼻水とくしゃみがとにかくひどかった。外に出ればハックション、車を降りればハックション、ついでに奈良漬けを食べてもハックション。しかもこれがたいがい3連発くらい。知り合いからは「くしゃみで、お前が来たのがわかる」と言われたものだった。この基本形は今でも変わらない。

 おもしろいもので、花粉症の人に出会うと妙な親近感を覚える。
 勤めていた頃、ティッシュペーパーがもったいないので、机の上にトイレットロールを常備していた。もちろん、かたわらのゴミ箱はそのトイレットペーパーの山だ。
 ある時マスクをしたお客さんが入ってきた。ニコッとして僕に声をかける。
「おたくもですか?」
「はっ?」
「いや、その山……。花粉症でしょ」
「そうなんですよ。かないませんなあ」

 こんなわけで花粉症とつきあっているが、雨が降ると症状はかなりましだ。もちろん花粉そのものは雨でも飛んでいるわけだが、あまり空気中に漂わないのだろうか、とにかく体感的に楽だ。
 だから僕は、春の雨がうれしい。

(記/1998.3.12)


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