蔵元サイトを見ると、この「蔵纏(くらまとい)」は年間500本しか造らないのだという。蔵の最高級品とあって、あとで文箱にでも使えるかと思えるほどの大きな桐箱入りだった。
瓶も独特の形をしていて、栓はネジ式。口径も少し小さい独自サイズのようで、いつも使っている注ぎ栓が入らなかった。
コップに注ぐと淡く黄味がかっている。
この蔵のお酒で面白いのは香りではないかと思う。以前飲んだ同蔵の「豊祝」と共通する香りが鼻をかすめる。これはたぶん、伏見のお酒のなかでは少ない部類ではなかろうか。
解説には「フルーティーな香り」とある。でも僕にはあまり「フルーティー」とは思えない。どんなフルーツなのか思い浮かばないし、かといってお米の香りのようにも感じない。
実は去年の暮れに、知り合い数人といっしょにこのお酒を飲んだ。やっぱり香りが話題になった。どう表現する?と……。
「カビのような香り」と、一人が言った。
なるほどそうきたか、という感じ。考えてみれば麹はまさしくカビだから、お酒はカビの賜に他ならない。ただ「カビのような」と言うと、なんだか美味しそうに聞こえないのが難点だ。
似たところで、もしかしたら「○○チーズのような」と言えるかもしれない。でも僕はその「○○」に入るべきチーズを知らない。うーむ、辛いところ……。
そんなわけで僕には「〜のような」が浮かばない。それに比べれば、何か一つでもたとえられたらたいしたものだと思ってしまう。
いずれにせよ、スモークとでもいったらいいのか、一種の「くさみ」のようなものを感じるわけ。無難な表現でいえば「クセがある」といったところ。それがこのお酒のインパクトになっているように思う。
それゆえ好みは分かれるかもしれないが、そのインパクトは記憶に残るように思う。僕がこのお酒を飲んで思い出したのは「豊祝」同様、二十数年前に飛騨で飲んだお酒の香りだったのだから。
なお、香りを楽しむなら冷やしすぎない方がいいように思う。
(記/2006.1.16)
|