京都は伏見だけでも20を超える酒蔵がある酒どころ。そんな京都府内の地酒を飲みながら、リアルタイムで綴るお酒の話。
おおむね月1更新。飲み手・書き手=小国文男
この銘柄「日出盛」には、僕にとっていささかのいわくがある。
1年余り前、「桃の滴」で知られるこの蔵を見学する機会があった。看板銘柄は「日出盛」だから、ぜひそれを飲みたいと思っていた。ところが話を聞くと、純米酒としての銘柄が「桃の滴」で、「日出盛」はそれ以前の銘柄なのだという。なのでその時「日出盛」は後回しにしてしまった。
その純米大吟醸が油長さんのネット販売の「期間限定」品に出ていたので、買い求めた。だからようやく口にする「日出盛」なのだ。
濾過や加熱をせず、しぼったままを瓶詰めしたものだという。瓶には「うすにごり」のラベルが貼られている。濁り酒ほどではないが、オリを含んで淡く白濁している。しぼり始めの部分なのかもしれない。だから見た目にも「白い」という感じがする。
いつものコップに注いで口に近づけると、心地よい吟醸香が鼻腔をくすぐる。「桃の滴」もそうだったが、飲み始めの口当たりは甘めだ。しかし喉ごしは割合に辛い感じで、ちょっとカーッと来る。
飲み下したあとの口の中の、残り香に味があるのはうれしい。
しばらく飲んでいると、次第に甘味は薄れて辛口が立ってきた。酔いとともに香りの感覚がマヒしてきたためだろうと思う。こういう酒は好きだ。
しばらくぶりの酒のせいか、このお酒が旨いからか、少しでやめておこうと思っていたのに、思った以上に杯を重ねている。だんだんアテがほしくなってきて、冷蔵庫をあさってみたが、残念ながら適当なものはなかった。
ふと、この蔵のお酒にいつも貼られているラベルがないことに気がついた。「純米醸造」という純粋日本酒協会の保証証紙だ。限定品ゆえなのか、確かに純米なのになぜ貼られていないのかは、わからない。
ところで松本酒造は、煉瓦の煙突をもつ酒蔵の風景がいわば伏見の象徴ともなっているが、それが経済産業省の「近代化産業遺産」に認定されたらしい。それを記念して限定5000本の「桃の滴」も発売されたという。むむむ……、である。
【データ】
「日出盛」大吟醸純米無濾過生原酒
醸造元:松本酒造株式会社
製造年月:2008年1月
原材料名:米・米麹
原料米:特等山田錦
精米歩合:50%
日本酒度:+3.6
酸度:1.3
アミノ酸度:1.1
アルコール分:17度以上18度未満