もしかしたらこのお酒は、3月の蔵見学の折にタンクから汲んだ醪(モロミ)を飲ませていただいた、まさにそのお酒かもしれない。記録によれば、それは全国新酒鑑評会に出品予定のタンクということだったからだ。
そのお酒が10年連続で金賞を受賞したという。原料米や精米歩合などから、銘柄としては「一吟」とみていいだろう。
聞けば、鑑評会の審査結果は蔵やタンクまで特定されるという。「一吟」なら別のタンクの可能性もあるが、「金賞受賞酒」と銘打つのはつまり、受賞したタンクのお酒そのものということだろう。
いただいた醪は発酵中だったから、炭酸ガスでピリリとしていた。僕はこれが好きだ。それがどう変わっているだろうか、というのがまず興味深い。
「審査では、水のようなお酒が好まれる」と、蔵見学後の懇談会で聞いた記憶がある。金賞を受賞し続けるためには、審査基準の研究も欠かせないらしい。
ラベルには「おいしい飲み方」として「常温・冷やして」とある。たぶん、冷やしすぎないくらいがいいと思って、冷蔵庫から出してしばらくおいておいた。
開栓すると、ほんのり吟醸香がこぼれ出た。コップに注ぐと、ほとんど無色透明だ。白い紙を透かして見ると、淡いサングラスのようなごくごく薄いブラウンといったところ。
口に含む。むろん、もはやガスはなく、口あたりがやわらかい。先日飲んだ御香水を彷彿とさせる。しかし水ではない。味がある。穏やかな香りのなかに旨みを感じる。
でも、いかにも私はお酒です、というような主張は感じない。お酒臭さというか、アルコール臭をあまり感じないのだ。その意味では、とても旨い水とも言える。
実は僕もずいぶん前、突き詰めれば旨い酒は抜群に旨い水ではないかと思っていた時期があった。でも「水の如し」と銘打ったお酒を飲んでさほどでもないと感じたこともあり、「水のような」という形容にはちょっと疑問符的だった。だから最近はむしろ、味のあるお酒を好むようになってきた。
正直なところ、金賞が水のようなお酒ならあまり好みではないな、と思ったくらいだ。蔵見学後の懇談会で、「一吟」と「井筒屋伊兵衛」のどちらが好みか、という話題になったことがあったが、僕は迷わず「井筒屋伊兵衛」に手を挙げたものだった。
でもこのお酒を飲むと、ホンマの「水のような酒」というのはこういう酒なんやで、と改めて教えられた気がする。
(記/2007.6.27)
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